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船酔い10分で30センチ級イサキ 強風、高波で体力の限界も…非日常の極みを堪能

[ 2024年4月9日 04:30 ]

開始から10分で釣り上げたイサキ
Photo By スポニチ

 【還暦からの釣り習い】旅と釣り――それが還暦から始めた連載の5回目のテーマだ。東京駅から約3時間、高速バスと路線バスを乗り継いで向かった先は千葉・洲ノ崎の佐衛美丸。狙うはイサキ。さて、その成果は…。 (牧 元一)

 海に出た途端、旅行気分は吹き飛んだ。強い風と高い波。前日の天気予報ではここまでの荒天を予期できなかった。ぼうぜんと海面を眺めていると、時折、サーフィンができそうな波が見える。そんな波が砕けると、頭の上から海水が降ってくる。冷たい。完全防寒の上着を抜けて海水が入り、下着を濡らした。寒い。

 船は最初のポイントに到着。「海面から40メートルを狙ってください」と早川忠信船長の声。しかし、船は激しく揺れ続けている。こんな悪条件で釣れるのか。餌のバイオワームを付けたハリとコマセを疑心暗鬼で海に投げ込む。待つこと数分。当たりを感じる前に自身の内臓の不調を感じた。早朝、乗り物酔いの薬を服用していたが、全く効果がないようだ。

 周りの乗客は釣れ始めている。船長の指示ダナに間違いはないらしい。しかし、小生の体調は優れない。気分がどんどん悪くなってゆく。目の前が真っ暗になりそうだ。ところが、その時、当たりを感じた。必死にリールを巻き上げると、美しい姿のイサキが掛かっていた。60歳からの釣り習いで初めての魚種。30センチ近くありそうだ。素晴らしい。だが、そこが肉体の限界だった。気分が悪すぎて立っていられない。開始から10分。静かに竿を置いた。

 「顔色が悪いですよ。酔いましたか?」。隣にいた東京都町田市の田中大介さん(49=会社員)が優しく声をかけてくれた。彼は強風と高波にめげず順調に釣り上げているようだ。時に3本掛けがあり、マアジやサバも交じる。「こんなに波があるのに平気ですか?」と小生。「怖いですよ。でも、僕は三半規管が強いのかも」と田中さん。釣りを始めてからおよそ5年でイサキを狙うのは今回が初めてだったそうだが、最終的に計40匹、最大35センチを物にしていた。

 船を下りた後、「今日の感想は?」と尋ねると、田中さんは満面の笑みで「楽しかった」と即答した。彼のように強風でも高波でもどんな悪条件の下でも、心から楽しめるのが真の釣り人なのかもしれない。小生は…。それでも、わずか10分で釣り上げた「究極の1匹」にそれなりの満足感があった。

《解放感あふれる景色 温かなひととき過ごす》
 釣りを終えた後、港から徒歩で5分ほどの洲崎神社を訪れた。鳥居をくぐり、高く長い階段を上りきって、境内で振り返ると、先ほどまでイサキを狙っていた海が見えた。美しく開放感あふれる景色だ。

 隣接した養老寺は滝沢馬琴の名著「南総里見八犬伝」由縁の寺。最近、平岩弓枝さんが書いた現代語版の文庫本を読んだばかりだったこともあり祭られた役行者の石像などが興味深かった。

 その後、房総フリーラインをゆっくり歩いて、洲埼灯台へ。この灯台は房総半島最西端にあり、東京湾に出入りする船舶の目印になっているという。残念ながら遠くの富士山は見えなかったが、柔らかい日差しの中、朝の海の寒さをすっかり忘れるあたたかなひとときを過ごした。

 旅と釣り――非日常の極みを堪能する1泊2日となった。

 ▼釣況 東日本釣宿連合会所属、洲ノ崎・佐衛美丸=(電)0470(20)8003。集合時間は午前5時。乗合料金は餌・コマセ・氷付きで1万1000円。

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