【内田雅也の追球】同情無用、弱音を吐かない姿勢 青柳の投球はやはり阪神のエースのものだった

[ 2022年5月15日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神9-2DeNA ( 2022年5月14日    横浜 )

 「エース」について昔はこんな風に言ったものだ。「味方が10点取れば9点まで、1点しか取れないなら0点に抑えるのがエース」。先発完投が当たり前だった時代の話である。

 ただ、チームの勝敗を背負う姿勢は今にも通じているのではないか。

 阪神OBの江夏豊からは「エースの条件は、まず勝てるピッチャーよ」と聞いた。著書『エースの資格』(PHP新書)には0―1で敗れた際の姿勢を書いている。<周囲の同情の言葉を受けて「ああ、俺はがんばったのにな。打線が打ってくれなかったな」と逃げの気持ち>になる。<それでは「主力投手」ではあっても「エース」とは呼べません>。

 青柳晃洋は阪神のエースである。だから前回登板(6日・中日戦)で延長10回、0―1のサヨナラ負けで敗戦投手となっても打線を恨むことはなかった。投げ合った大野雄大は9回完全、10回1安打完封の快投だった。敗戦投手となった青柳は話していた。「絶対負けないように、1点も取られなければ負けないと思っていた。大野さんに投げ勝つのが今日の目標だった」。同情無用、弱音など吐かぬ姿勢にエースの自覚を感じていた。

 また、江夏と同時代に巨人のエースだった堀内恒夫は敗戦の経験を生かすことを説く。著書『バカでエースがつとまるか!』(ベースボール・マガジン社新書)にある。<痛い目にあった分だけの“免疫”をきちんと作れているか。ピッチャーは“免疫”の抗体が多いほど一流といえる>。

 ならば、この日の青柳の投球はやはりエースのものだった。味方打線は大量9点も取ってくれた。不調だったのだろう。6回まで毎回の8安打(今季最多)を浴びた。DeNA打線は1、2、3回と先頭打者が皆、セーフティーバントやその構えで揺さぶってきた。それでも辛抱して、2失点でまとめたのだ。

 もう1人書いておきたい。渡辺雄大は前回登板(11日・広島戦)で今季12試合目にして初失点、逆転されて敗戦投手となった。翌日から雨で2日流れてこの日、7回を3人で切った。桑原将志にフルカウントから5連続ファウルされながら投ゴロに切った投球にはすごみがあった。エースのように勝敗を背負った気概を見た。=敬称略=(編集委員)

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2022年5月15日のニュース