【内田雅也の追球】神様の目と大観衆の息

[ 2022年3月26日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神8ー10ヤクルト ( 2022年3月25日    京セラD )

3回、三ゴロに倒れるも全力疾走で併殺を逃れたマルテ(右)
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 阪神が7点差を逆転された要因はいくつかある。最大の問題は開幕前から不安視されていた救援陣である。必勝継投のパターンが見えない。

 まだ3点のリードがあった8回表2死一塁から投入した岩崎優が3連打を浴び1点差に迫られた。新外国人カイル・ケラーは9回表、同点ソロに決勝2ランを浴びた。いずれも得意のパワーカーブを運ばれた。

 開幕当初は確かに手探りだが、セットアッパーとクローザーがともに崩れた敗戦はしばらく尾を引きそうな気配である。

 いや、野球の神様はそれまでの戦いぶりに目を光らせていた。8―1となった時点で油断はなかっただろうか。

 先発・藤浪晋太郎は6回表、2死無走者から連続長短打で失点した。若い長岡秀樹に浴びた右中間二塁打は高め棒球だった。7回表先頭、同じく若い浜田太貴に放り込まれたのも追い込んでからの甘いスライダーだった。8回表に登板した斎藤友貴哉は1死から与えた四球で自分を苦しめた。

 打線も同様だ。1―4回で14安打を放ちながら5―8回は無安打。早々と攻撃を終わり、相手に流れを渡してしまった。あえて書けば気の緩みがしわ寄せとなって終盤に襲ってきたわけだ。

 4回までは素晴らしかった。1回裏、近本光司、中野拓夢の連続盗塁失敗にも「超積極的」な姿勢が見えていた。3回裏1死一塁、三ゴロを放ったジェフリー・マルテは全力疾走し併殺を逃れた。2死一塁が残り、直後の連打による3点を生んでいた。4回裏も2死後、中野の二盗が生きて、4点を追加していた。

 前半最高、後半最悪。天国から地獄である。

 「一寸先は闇」だと大リーグの名フロントマン、サンディ・アルダーソンが語っている。ロジャー・エンジェル『球場へ行こう』(東京書籍)にある。だから「常に浮かれ過ぎず、落ち込み過ぎぬように、つまり平常心を保てということだ」。

 コロナ下の入場制限が撤廃された。過去2年で最多7526人だった京セラに3万5510人の満員観衆が詰めかけていた。拍手やざわめき、息づかいが場内の空気をつくる。勢いも不安も助長するのである。昨季優勝を争った両軍が打ち合った30安打、18得点。神様の目とファンの息が生んだ乱戦だったと記しておく。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年3月26日のニュース