THE BEST SHOT スポニチ・長久保カメラマン ファインダーの中の羽生は孤高かつ、無二

[ 2022年7月20日 05:25 ]

羽生結弦 プロスケーター転向

2016年11月NHK杯SPのレッツゴー・クレイジーでトリプルアクセルを着氷した瞬間の羽生。この直後に左足を振り上げてハイキック(撮影・長久保 豊) 
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 羽生に魅せられ、羽生を撮り続けたスポニチ本紙・写真映像部の長久保豊特別編集委員(60)が、膨大な写真の中から渾身(こんしん)の一枚を選択。とっておきの一枚にまつわるエピソードと希代のスケーターへの思いを語った。

 私は17歳だった彼を知っている。子供の世界と大人の世界を自由自在に行き来して、周囲のみんなを笑顔にしていた彼を知っている。

 あの伝説のニース(2012年世界選手権)。痛んだ右足を最後まで隠し通そうとして…。17歳、熱情のロミオに泣けた。不安な表情でスタート位置に向かった“あの子”がフィニッシュしたときには大人の顔になっていた。指を天に突き刺し上げたときのドーンという会場の歓声を忘れない。

 この人はやがて世界の頂点に立つだろう、いや誰も到達したことのない領域まで上っていくのだろう。それはきっと孤独で体がボロボロになっても下りることは許されない道なのだろう、と。

 それから。

 ファインダーの中の彼はいつも孤高の存在だった。カメラマンにとっては試合での勝ち、負けを超越した存在だった。演技の中の一瞬は万華鏡のきらめきの一瞬だった。一番美しい羽生結弦を撮るためにわれわれも必死だった。ピントが合うと聞けば使用するカメラを変え、いい色が出ると言われればまたカメラを変える。仕事という感覚はいつしかなくなった。羽生結弦を撮るのが好きだからそうしているだけだった。心に残る写真は数多い。その中の1枚を選ぶとすれば16年のNHK杯、レッツゴー・クレイジーの1枚だ。トリプルアクセルを着氷、後ろに流したフリーレッグを跳ね上げる直前の一瞬だ。羽生だからできる、いや羽生結弦でなければ考えもつかない演技だった。

 あの日。

 17歳が演じた奇跡に涙したカメラマン席。「あいつ遠くへ行っちゃったよ」。先輩カメラマンが、そうつぶやいたことを思い出す。彼は2つの遠く高い山を登り、また別の山を登る旅に出る。彼のことだから楽な道は選ばないだろう。私も体が続く限り付き合うことにする。お手柔らかに。(写真映像部編集委員)

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2022年7月20日のニュース