釜石再生へ女子高生が感謝、歓迎を発信 「ラグビーのまち」若者たちの力で刻む新たな歴史

[ 2019年8月6日 10:00 ]

ラグビーW杯日本大会9・20開幕

日本代表のジャージーを着たマネキンと写真に納まる洞口さん(撮影・久冨木 修) 
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 【W杯への鼓動】19年W杯唯一の新設会場が、岩手県釜石市の釜石鵜住居(うのすまい)復興スタジアムだ。7月27日に初の国際試合となる日本―フィジー戦を開催し、W杯への準備を整えた。昨年8月、スタジアム完成記念式典で「キックオフ宣言」を行った洞口留伊さん(17=釜石高3年)は試合を前に、東日本大震災後の支援に対する感謝や、会場へのアクセス方法を動画で配信するプロジェクトを実行。震災当時はラグビーと無縁だった世代が「ラグビーのまち」再生へ動きだしている。

 3月に営業が再開された三陸鉄道リアス線の鵜住居駅に降り立ったラグビーファンを、地元の人々が打ち振る大漁旗の波が出迎えた。「こんにちは」「釜石へようこそ」。歓迎の言葉をかける人々の中に、夏休み初日の洞口さんの姿もあった。首都圏の大学への推薦入学を目指して勉強中の夏だが、ラグビーに関わる活動にも積極的に足を運ぶ。「大学では防災について研究したいと思ってます。去年の冬ぐらいに決めました。来週から出願が始まるし、凄く大変なんですよ」と笑った。

 鵜住居小3年の3月に震災が発生。自宅は津波で流され、学校は全壊した。その学校の跡地にW杯を目指してスタジアムが建つことが決まり、ラグビーに興味を持った。「釜石がラグビーで有名な町というのは聞いていたけど、実際には私を含め周囲はみんな、試合を見たことがほぼなかった」

 競技を知りたいと思い、地元ロータリークラブが募集した15年W杯イングランド大会の視察に応募。日本―スコットランド戦で初めてラグビーを観戦し、ファンになった。「ルールは分からなかったけど、必死な姿に圧倒された。応援席に両方のファンがいるスポーツも新鮮で、試合後に握手するノーサイドの精神も良かった」。現地では日本語で話しかけてくれたり、君が代を歌ってくれるなど、人々の歓迎ぶりにも感銘を受けた。「4年後は釜石がその立場になるので自分も何かしたいなと。自分がアクティブになれた人生の起点が、15年のW杯だったと思う」

 昨年8月19日、鵜住居復興スタジアムの完成式典。「わたしは、釜石が好きだ」で始まるキックオフ宣言で感謝の思いとW杯への決意を述べた。感動のスピーチは注目され、発信することで世界が変わっていく言葉のパワーを実感した。

 日本―フィジー戦前には「7・27高校生感謝プロジェクト」を立ち上げ、200人以上が趣旨に賛同。地元の高校生らがインスタグラムを通じて世界中へ感謝や歓迎のコメントを投稿した。人口3万4000人の町に訪れる1万6000人の観客が迷わないよう、YouTubeには釜石駅からスタジアムへのアクセス方法もアップした。「助かります、ありがとうというコメントを見ると、やって良かったと思うし、混雑を緩和する手助けを少しでもできたのならうれしい」

 震災後に県外へ転校し、音信不通となっていた友人とスピーチをきっかけに再会。故郷を訪れた友人にも指摘され、W杯開催決定を機にスピードアップした復興ぶりを感じている。そして、本当に重要なのはW杯後であることも。「W杯後も衰えない、というのがプロジェクトのコンセプト。できる限り活動していきたいです」

 将来はアナウンサーになり、自分の言葉で魅力や感動を伝えていくことが夢だ。「釜石の一番の良さは人の良さ。観光客が来て、あの人に会いたいからまた来たい、という町にしたい」。かつて鉄と魚とラグビーで栄え、震災で傷ついた町は、ラグビーW杯を機に活動を始めた若者たちの力で新たな歴史を刻んでいく。

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2019年8月6日のニュース