野球の次は

[ 2018年9月5日 08:30 ]

新潟時代の長谷川さん
Photo By スポニチ

 【我満晴朗のこう見えても新人類】この夏、最も注目を浴びたトレンドスポットと言えば、秋田県で間違いないだろう。言わずと知れた金足農の活躍があまりに鮮烈だったからだ。

 その進撃ぶりには誰もが心を打たれたと確信しているが、多少皮肉な見方を許していただけるのなら、やはり「高校野球」および「甲子園」のブランド力が大きい。だって秋田には高校男子バスケットボールで通算58回の全国優勝(準優勝ではなく)を達成した能代工という絶対的な存在があるのだけど、業界関係者以外でその偉大さを熱く語る人に出会ったことあまりない。

 その能代工OBの長谷川誠さんと新潟市内で晩飯をともにしたのは12年ほど前。当時の彼はbjリーグ・新潟アルビレックスBBの現役選手だった。

 とりとめのない雑談の合間にこんな質問をした覚えがある。「秋田にもプロチームが出来る可能性があるのでは?だって能代工はすごい人気なんでしょ?」。すると長谷川さん、真剣な顔つきになって「無理だと思います」ときっぱり。理由を聞くと「だって人気あるのは能代工の試合だけですから」という。

 続けてこんなエピソードを明かしてくれた。実業団女子の強豪チームが能代で試合を行った際、前座として能代工のエキシビションゲームが組まれた。当日は案の定、会場の体育館にキャパシティーいっぱいのファンが詰めかけ、われらが地元高校のプレーに熱い声援を送った。試合が終わり、さあメインの実業団チームが登場すると…観衆は潮を引くように退席していったという。

 「だから秋田の場合、バスケファンではなく、能代工ファンが多い、ということなんです。仮にプロチームを興そうとしても、出資してくれそうな大企業が極端に少ない。難しいんですよ」

 筆者はおすしをほおばりながらウ〜ンとうなるばかりだった。

 すでにご存じの通り、2010年には県初のプロスポーツチームとして「秋田ノーザンハピネッツ」が誕生。bjリーグ時代は2季連続してファイナル準優勝に輝くなど強豪チームとして定着した。Bリーグとなってからも歴史の浅さを感じさせないタフなプレーでファンを魅惑。昨シーズンは2部に降格したものの、わずか1年で1部復帰を果たし、今秋開幕のシーズンを迎えることになった。

 成績だけではない。アリーナに集う観客数もbjリーグ時代から常に上位を誇っている。Bリーグでも初年度の1試合平均は3058人で4位。B2時代の昨シーズンは同2897人で堂々の1位だ。もうだれも前座のイベント終了と同時に帰ったりしない。

 確かに「高校野球」「甲子園」は絶大なブランドだ。でもプロバスケだって地道に頑張っている。一部でスキャンダルが露呈しイメージダウン激しいこの時期だからこそ、秋田のようなチームの進撃に期待してみたい。金足農症候群に多少あやかっても。(専門委員)

続きを表示

2018年9月5日のニュース