トロントで描いたORIGINの地図〜クリケットクラブ、サンダル紀行

[ 2018年9月5日 10:30 ]

クリケットクラブでの公開練習。美しい体のラインを見せる羽生結弦選手(撮影・長久保豊)
Photo By スポニチ

 【長久保豊の撮ってもいい?話】仕事を終えてホテルのロビーで一人考え込む。「彼はまだ進化を止めない。あのステップは(振り付けの)シェイリーン・ボーンさんが鬼なのか?羽生さんが鬼なのか」。

 素足にサンダル、スウェットの上下だけでは肌寒さを感じるカナダ・トロントの午後である。

 8月30日、羽生結弦選手公開練習。前日、14時間の長旅に備えスウェット、サンダルで飛行機に乗り込んだまではよかったが靴、衣類一式を入れたカバンが勝手に旅に出た。商売道具のカメラはあるが問題はこの格好だ。選手に失礼だし、クリケットクラブという格式高い場所に出入りできる姿ではない。朝、ホテルのロビーで途方にくれているとお仲間のカメラマンたちがやってきて役に立たないことを言っては去って行く。「足を早く動かせば靴に見えますよ」(それこそ不審者だ)。「パンツ貸しましょうか」(じゃあ貸してくれって言ったらどうする。もじもじするオヤジ同士ってどうよ?。ジャパンスポーツの和田さんよ)。「サンダルはヤバイっす」とLINEで冷たく突き放す著名カメラマンT、もう1人の著名カメラマンNは時差ボケのポンコツ状態で他人に構っている場合じゃなかったらしい。まあ、あれこれ悩んでいても仕方がないのでクラブへ向かう。現地では出会う人たちに自分のスウェットを指差し「ロストバゲージ」と連呼していたのは言うまでもない。

 ここに来た目的の一つは新プログラムの地図を作ること。リンクのどの部分でジャンプやスピンが行われるのか? 印象的なステップは曲のどの部分か? フィニッシュの位置は?。記憶に刻まれた地図が詳細であればあるほど本番ではカメラマンに有利に働く。オータムクラシックから来年3月の世界選手権まで計6、7枚の1面写真をそこから想像していくのだ。

 70人近い報道陣が見守る中でリンクインした羽生選手は新フリープログラム「ORIGIN」をいくつかのパートに分けて披露してくれた。

 ヒザをつき右手を前方に出してから左手を天に伸ばす印象的なフィニッシュ。レッツゴー・クレイジーのズサーッと同じようにオータムクラシックではこのシーンを撮るためにジャッジ席の左斜め上(陸上トラックに例えれば4コーナー)にカメラマンが殺到するはずだ。そしてお宝写真の宝庫と言えそうなのが、後半の3A―2Tからコレオシークエンス、3Aとたたみ掛ける道程。それはまさしく羽生結弦絵巻というものだ。レイバック・イナバウアーを撮るなら第3コーナー、ハイドロブレーディングを撮るなら撮影位置は第2コーナーのリンクサイドと地図に記した。

 冒頭の「彼は進化を止めない」の言葉を感じたのは体のライン出し。以前から美しかったが今季はある種の妖しさをも纏った。音を抱く強さ、音に包まれる柔らかさの対比。それを一番表現できるであろう撮影ポジションは赤丸でグリグリと印をつけたが…内緒だ。

 「ORIGIN」。ファンたちは息をするのを忘れるか、過呼吸で心臓がバクバクなっちゃうのが必至。彼の演技で泣き笑うシーズンがまた始まる。

 一連の取材を終えスタッフと談笑する羽生選手の横を通り過ぎた。思い切り早く足を動かしたからサンダルとはバレてなかったに違いない。そんなことを考えていたらフロントの人が呼びに来た。「ミスター、荷物が届きましたよ」。

 遅いって…。(写真部長)

▼長久保豊(ながくぼ・ゆたか)1962年生まれ。空港からのバス。運転手さんから「シルバーか?」と聞かれ「ゴールドだ」と答えそうになった56歳。羽生さんのことではなかったらしい。

続きを表示

この記事のフォト

「羽生結弦」特集記事

「貴乃花」特集記事

2018年9月5日のニュース