渡辺雄太 小2で決めた夢「えぬびーえーにいきたい」

[ 2018年9月5日 09:30 ]

2020 THE STORY 飛躍の秘密

NBAサマーリーグの試合にネッツで出場した渡辺雄太
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 2年後に迫る20年東京五輪の新企画(毎週水曜日付)がいよいよスタートする。有力選手の原点に迫る特集の第1回はバスケットボール男子日本代表で、7月にNBAグリズリーズとツーウエー契約を結んだ渡辺雄太(23)。04年にサンズでプレーした田臥勇太(現Bリーグ栃木)に続く、日本人2人目のNBAデビューは間近とされる。待望の新スターが誕生した背景を元バスケットボール選手の両親に聞いた。

 渡辺の身長は2メートル6。日本では「センター」、米国でも一般的には「フォワード」のサイズだが、今回契約したグリズリーズでの登録は「ガード」だ。ガードは小柄で、多様なスキルや機動力のある選手が務めるポジション。渡辺は高身長ながらドリブルやシュート力、脚を使った守備が評価されているのだ。ガードをこなせる2メートル6の選手なんて、これまでの日本にはいなかった。

 父・英幸さん(59)は実業団の熊谷組でプレー。母・久美さん(旧姓久保田、56)は名門シャンソンの選手で、日本代表でも主力だった。バスケ一家に育った渡辺は小1で久美さんがコーチを務める香川県三木町の少年団でバスケットを始めた。

 練習は週3日。物足りなさを感じた渡辺が「もっと練習したい」と言って始まったのが毎朝1時間の早朝練習だ。5時半に起床し、6時に英幸さんと一緒に平井小のグラウンドへ向かった。

 英幸さん「ボールハンドリングの練習を徹底的にやった。利き手ではない右は2倍の量をやらせました」

 校舎に掛かった時計を見ながら、顔を上げてドリブルする。背中の後ろや股の間などを通したり、リズムを変えたりさまざまな技術にトライした。校庭にリングはなかったが、代わりに電柱をゴールに見立ててシュート練習もした。ピンポイントで中央に当てないと、ボールはまっすぐ返ってこない。シュートの精度も磨かれた。小3の後半からは上級生に交じって試合にも出場するようになった。

 久美さん「自分でリバウンドを取って、ボールを運んで、シュートを打ってと何でもやっていた」

 小学生の頃の渡辺は1人で何役もこなす点取り屋だった。当時からNBAの試合は家族と一緒にテレビで見ていた。憧れはレイカーズのスター、コービー・ブライアントだ。

 英幸さん「本人は覚えていないと言っているけれど、小2の時に“僕はNBAに行きたい。レイカーズに入る”と言っていた」

 小5で簡易型のゴールを購入すると、近所の空き地でシュート練習もした。中学時代は1000本入るまで4時間打ち続けたこともある。

 中学までは飛び抜けた選手ではなかった。3年で県2位となったが、全国大会の経験はない。1、2年は県大会にも出場していない。身長も入学時に約1メートル60、中3の夏でも1メートル80に届いていない。特別大きな選手ではなかった。

 久美さん「とにかく細かった。学校から栄養指導のために呼び出されたこともあった。膝の成長痛があって、無理もできなかった」

 進路を決める際、県外の強豪校の練習会にも参加したが、入学を断られた。だが、1メートル90の父と1メートル77の母のDNAを受け継ぐ渡辺は中3の夏から急激に身長が伸び、卒業する頃には1メートル90になった。地元の尽誠学園に進学し、1年の夏頃から成長痛も治まった。動けるようになると、小学生の時から培ってきたオールラウンドな才能が開花していく。

 久美さん「高校で型にはめずに、外の選手として育ててくれたことが大きかった」

 英幸さん「日本にいたら、お山の大将だったと思う。例えば、今はダンクできる時は全部する。日本では誰も跳んでこないから、レイアップをして、ダンクをしていないと思う」

 厳しい環境が渡辺の実力を大きく伸ばした。今春の卒業後、NBAドラフトでは指名されなかったが、サマーリーグではネッツの選手としてプレーし、平均24分のプレータイムをもらい、3点シュートや守備の能力をアピールした。

 久美さん「“僕は本気でNBAに行こうと思っている。大変だとか、無理だとか、ちゃかしたりしないでくれ”と言われました。私もサマーリーグを見に行って、もしかしたらと思っています」

 英幸さん「可能性はなくはないと本気で思っています。東京五輪にはNBA選手として出場してほしい」

 両親は心身ともにたくましくなった渡辺の姿に目を細める。渡辺が小学生の時に漠然と描いた夢はこの秋、現実になろうとしている。

 ≪19年W杯アジア2次予選 渡辺「楽しみ」≫渡辺は19年W杯(中国)アジア2次予選カザフスタン戦(13日、アルマトイ)、イラン戦(17日、大田区総合体育館)の代表メンバー入りが決まった。4日に自身のツイッターを更新し「日本代表としてルイ(八村塁)と一緒に帰ります!久々の代表戦すごく楽しみです!!」とつづった。1次予選は大学の試合やNBA挑戦の準備と重なって全戦欠場しており、代表戦は約2年ぶり。ゴンザガ大の八村塁との初共演に期待が高まっている。

 ▼グリズリーズ 本拠地はテネシー州メンフィス。西地区のサウスウエスト・ディビジョンに所属。10―11年から7季連続でプレーオフに進出したが、ランドルフらベテラン選手を放出した昨季は22勝60敗と苦戦し、プレーオフを逃した。今季のプレシーズンマッチは10月2日に始まる。レギュラーシーズン初戦は17日の敵地ペーサーズ戦。傘下のGリーグチームは「ハッスル」で、11月3日に敵地で初戦を迎える。

 ▼ツーウエー契約 NBA下部のGリーグのチームに所属しながら、最大45日間NBAチームに登録できる。17―18年シーズンから、NBAチームは本契約15選手のほかにツーウエー契約2選手を登録できるようになった。結果を残せば、本契約に切り替わることもある。対象選手はNBA在籍4年未満。チームに所属できるのは2シーズンまで。 

 【渡辺雄太】☆生まれ 1994年(平6)10月13日生まれ、香川県三木町出身。生まれた時の体重は3200グラム。

 ☆サイズ 身長2メートル6、体重93キロ。リーチは2メートル8。跳躍力はスタンディング(立ち姿勢)75センチ、ランニング(助走あり)93センチ。左利き。

 ☆高校時代 尽誠学園2、3年でウインターカップ2年連続準優勝。2年時に日本代表に初選出され、ジョーンズカップに出場。

 ☆米国生活 コネティカット州のセント・トーマス・モア・スクールを経て、14年9月にワシントンにあるジョージワシントン大入学。英語が話せずに渡米したが、毎日家庭教師と1時間勉強して両立。今年5月の卒業時には学業優秀者としても表彰された。

 ☆エージェント 今年4月にMLBのダルビッシュ有らも抱える大手スポーツエージェンシー「ワッサーマン」と契約。

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