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【1972年2月】終着駅/奥村チヨ 行き詰まった歌手と作曲家 逆転の“始発駅”に

[ 2012年2月19日 06:00 ]

★72年2月ランキング★
1 別れの朝/ペドロ&カプリシャス
2 悪魔がにくい/平田隆夫とセルスターズ
3 終着駅/奥村チヨ
4 ちいさな恋/天地真理
5 友達よ泣くんじゃない/森田健作
6 雨のエア・ポート/欧陽菲菲
7 雪あかりの町/小柳ルミ子
8 愛する人はひとり/尾崎紀世彦
9 虹と雪のバラード/トワ・エ・モワ
10 ともだち/南沙織
注目涙/井上順之
※ランキングは当時のレコード売り上げ、有線放送、ラジオ、テレビのベストテン番組などの順位を参考に、話題性を加味してスポニチアネックスが独自に決定。

【終着駅/奥村チヨ】

 2月19日、25歳の誕生日を迎えた奥村チヨは、心底いい歌にめぐり合ったと思いながら、毎日マイクを握っていた。

 その2カ月前は失意の年末を過ごしていた。71年、2年連続でNHK「紅白歌合戦」に出場していた、奥村チヨは落選した。69年に「恋の奴隷」で51万枚のレコード売り上げを記録。“恋三部作”でヒットを続け、その甘えた歌声で男性ファンを魅了してきたが、その路線も行き詰まりをみせていた。

 再起をかけて71年12月20日にリリースしたのが「終着駅」。これまでの“あなた好み”の女から、一気に180度雰囲気を変え、人生の切なさを震えるような声で歌い上げた。アイドルっぽいトレードマークのロングヘアをアップにし、大人の色気が漂う黒いドレスでステージに立つその姿は、それまでの奥村チヨとは別人だった。

 “恋三部作”は嫌々歌っていた。「男にこびるような歌は歌いたくない」という奥村をなだめすかしながら、ヒット曲は作られていた。声を作りながら歌い、レコーディングでは歌うのが耐えられず泣き出したこともあった。そうまでして作り出していたヒット曲。それが限界をみせたことで、周囲も方針転換をせざるを得なくなった。

 千家和也作詞、浜圭介作曲の「終着駅」を耳にした奥村はこれだとひらめき言った。「この歌を歌わせて」。歌手7年目にして奥村が自分からそう言い出したのは初めてだった。引退をも辞さない不退転の決意で臨んだが、これが運命の分岐点。40万枚のセールスを記録し、この曲で72年の紅白にカムバック。作詞の千家は日本レコード大賞の作詞賞を受賞した。

 作曲の浜にとっても運命を変えた一曲だった。元歌手の浜。作曲家に転身してもこれといった代表曲はなかった。作っても作っても作品に陽が当たらず、気分転換にと米国へ旅に出た。ホテルの窓ガラスから見える眼下の夜景に、一見華やかだが温かみのなさを感じた。この時浮かんだのが、あのもの悲しい「終着駅」のメロディー。売れる売れないは別として、納得のいく出来だった。

 追い込まれた歌手と作曲家。まさに次がダメなら終着駅、となるところだったが、年明けからヒットチャートを賑わし、有線でもリクエストが相次いだ。運命的な出会いとなった奥村と浜は74年に結婚。新しい人生の始発駅の役目を担ったのが「終着駅」だった。

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