365日 あの頃ヒット曲ランキング 2月

【1979年2月】チャンピオン/アリス モデルは谷村新司が心打たれたボクサー

[ 2012年2月7日 06:00 ]

 ★79年2月ランキング★
1 チャンピオン/アリス
2 モンキー・マジック/ゴダイゴ
3 HERO(ヒーローになる時、それは今)/甲斐バンド
4 カサブランカ・ダンディ/沢田研二
5 ガンダーラ/ゴダイゴ
6 カメレオン・アーミー/ピンク・レディー
7 夢追い酒/渥美二郎
8 夢想花/円広志
9 いい日旅立ち/山口百恵
10 性/ツイスト
注目ぼくの先生はフィーバー/原田潤
※ランキングは当時のレコード売り上げ、有線放送、ラジオ、テレビのベストテン番組などの順位を参考に、話題性を加味してスポニチアネックスが独自に決定。

【チャンピオン/アリス】

 ヒットする、と直感的に思ったスタッフはほとんどいなかった。「冬の稲妻」「涙の誓い」「ジョニーの子守唄」と3曲続けてノリのいい曲調でヒットを飛ばしてきたアリス。谷村新司が78年12月リリース予定で用意してきたデモテープの中に収録されたものは、やや長めのボサノバ調の曲だった。

 最後の挑戦に敗れ、引退を余儀なくされたボクサーの悲哀を描いた「チャンピオン」。アルバムで男の世界、理想を歌うことはあったが、基本的にアリスはシングル盤ではラブソングを歌ってきた。テーマは良しとしても、路線が変わることにファンは躊躇しないか、しかもアップテンポの曲からボサノバでは…。谷村の意欲は買えたが、やはりレコーディングスタジオの雰囲気は重かった。

 誰ともなしに一気にテンポを上げてみようという話になった。アリスのコンサートに帯同していたギターの第一人者石川鷹彦の編曲は、アコーステックギターの力強いイントロから入るアップテンポのものになった。レコード売り上げ78万枚、アリス最大のヒット曲が誕生した。

 さまざまなボクサーが自称「モデルはオレ」と名乗っているようだが、谷村がモデルにしたのは元東洋ミドル級チャンピオン、カシアス内藤。黒人の父親と日本人の母親の間に生まれたボクサーだった。

 ノンフィクション作家の沢木耕太郎氏と対談した谷村は、沢木が再起を期すカシアスを追いかけていることを知り、ジムに連れて行ってもらった。4年前に引退していたカシアスの復帰にかける執念に身震いするほど心動かされた谷村はボクサーをテーマに曲作りを始めた。
 
 コンサートで30人しか集まらない時から年300日を超えるステージをこなし、徐々にファンを増やしていった。78年には当時日本のバンドでは無理といわれていた日本武道館でのコンサートを3日連続で満席にし、レコードも売れに売れた。その集大成が文字通り「チャンピオン」になったこの曲だった。

 谷村は同時に上り詰めたアリスのこれからも「チャンピオン」でそれとなく描いている。いつかはリングを去らなければならない宿命が、あの重厚なメロディーとともに伝わってくるのは、アリスの3人がそれぞれ別の方向を向き出していたからでもあった。アリスが「活動一時停止」という名の解散に踏み切ったのはそれから2年後だった。

 

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