「鎌倉殿の13人」実朝&公暁“80秒の眼差し”「2人だけにスポットライト」撮影3日間“神シーン”裏側

[ 2022年11月29日 11:00 ]

大河ドラマ「鎌倉殿の13人」第45話。雪が降り積もる鶴岡八幡宮の大階段。対峙し、見つめ合う公暁(寛一郎・左)と源実朝(柿澤勇人)(C)NHK
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 俳優の小栗旬(39)が主演を務めるNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」(日曜後8・00)は27日、第45回が放送され、ついに鎌倉最大のミステリーにして鎌倉最大の悲劇「実朝暗殺」が描かれた。建保7年(1219年)1月27日、雪が降り積もる夜の鶴岡八幡宮大階段。安寧の世を目指した3代鎌倉殿・源実朝は志半ばの夭折。「神回」などとSNS上の話題を集めた同回を演出した安藤大佑監督に撮影の舞台裏を聞いた。

 <※以下、ネタバレ有>

 稀代の喜劇作家にして群像劇の名手・三谷幸喜氏が脚本を手掛ける大河ドラマ61作目。タイトルの「鎌倉殿」とは、鎌倉幕府将軍のこと。主人公は鎌倉幕府2代執権・北条義時。鎌倉幕府初代将軍・源頼朝にすべてを学び、武士の世を盤石にした男。野心とは無縁だった若者は、いかにして武士の頂点に上り詰めたのか。物語は、江戸幕府まで続く強固な武家政権樹立を決定づけた義時と朝廷の決戦「承久の乱」へと向かう。三谷氏は2004年「新選組!」、16年「真田丸」に続く6年ぶり3作目の大河脚本。小栗は大河8作目にして初主演に挑んだ。

 第45回は「八幡宮の階段」。右大臣に昇進した3代鎌倉殿・源実朝(柿澤勇人)は拝賀式を終え、鶴岡八幡宮の大階段を下り始める。「覚悟!義時!」。大銀杏の陰に潜んでいた公暁(寛一郎)が列を襲撃。太刀持ちを斬りつけた。しかし、太刀持ちは公暁が狙った北条義時(小栗)から源仲章(生田斗真)に入れ替わっていた。仲章は悲鳴。公暁の門弟に背後から刺されると血を吐き「寒い…。寒いぞ…。寒いんだよ!」。公暁は人違いに気づいたものの、仲章にトドメを刺した。

 そして対峙し、見つめ合う実朝と公暁。実朝の脳裏には“おばば”こと歩き巫女(大竹しのぶ)の声がよみがえる。「天命に逆らうな」――。実朝は北条泰時(坂口健太郎)に手渡された小刀を落とし、公暁に向かって頷いた。

 公暁が斬りかかり、実朝の血が雪を赤く染める。「阿闍梨公暁、親の敵を討ったぞ!」。しかし、読み上げる途中に声明文を実朝の亡骸の上に落としてしまい、血がついて読めない。義時は「斬り捨てよ!」。公暁は警固の兵から逃げた。

 政子(小池栄子)は長男・源頼家(金子大地)に続く息子の悲運に呆然自失。実朝の乳母・実衣(宮澤エマ)は怒髪天衝。そこへ千世(加藤小夏)が現れ、政子に紙を差し出した。「出(いで)ていなば 主(ぬし)なき宿と なりぬとも 軒端(のきば)の梅よ 春を忘るな」…。最愛の夫の別れの、辞世の歌だった。

 オンエア上は約10分間にわたった、仲章と実朝が討たれ、公暁が逃げるまでの一連のシーン。撮影はたっぷり丸3日をかけた。「大階段」はNHK内のスタジオにセットを組み、安藤監督は「現地に足を運べば実物の“規模感”が分かりますし、なるべくそれを目指したい。階段上と階段下を別々のセットにして、合成して規模感を出すようプランニングし、実朝の最後の舞台が際立つように、しっかりした規模感のものを建てました」と狙いを説明。通常は鎌倉御所など建物のセットが建っているが、今回はこれらを取っ払うという今作としてはイレギュラーな形となった。

 普段は別室で行うリハーサルも「全部のシーンじゃないですけど、大階段のセットを使えたのはありたがいと思いました。今回は高低差や立ち回りもあるので、やっぱり実際の“現場”でリハーサルはしておきたくて。仲章と実朝が討たれる一連の流れを確かめました」と感謝。

 「仲章は、ヒール役が義時の身代わりになった不遇とも言える最期。その哀れさを最大限、表現したいと思いました。全体の動きとして、最初は割とこじんまりしていたんですが、リハーサルを重ねるごとに躍動感が増してきて。生田さんからも『ここで血を吹き出してみましょうか?』といった、仲章が無様に見えるアイデアを頂いたり。現場リハのおかげで、役者さんやスタッフみんなと意見を交わしながら、舞台の稽古みたいに本番へとシーンを組み立てていくことができました。そして、何と言っても、これぞ仲章の散り際という『寒いんだよ!』の台詞ですよね。生田さん渾身の雄叫びで、本当に憎たらしい印象を焼き付けてくださいました」

 実朝と公暁の見つめ合いはオンエア上は約80秒。台本には実朝が「公暁に向かって頷く」のト書き。公暁に討たれるならば、本望だったのか。

 安藤監督は「ここまで来れば、あとは柿澤さんと寛一郎さん、お二人の眼差しに託しました。源氏の血を引く2人だからこそ、共鳴し合う部分があったと思うんです。実朝には公暁に討たれるという覚悟も、それなら本望という悟りも、鎌倉殿の重圧から解放されるという思いも、どこかにあったんじゃないでしょうか。公暁も単なる復讐だけじゃなく、双方、とてつもなく複雑な感情になっていたはず。なので、あの瞬間、周囲には“ギャラリー”がたくさんいるわけですが、もう2人だけの空間にしたいと考えました。まるで真っ暗な中、2人だけにスポットライトが差し込んでいるような。お二人の眼差しが、そんな2人だけの世界をつくり上げてくださったと思います」と手応え。2人を褒め称えた。

 「実朝と公暁の対峙でもあるんですが、おばばの声『天命に逆らうな』が象徴的に聞こえることも相まって、このシーンは『鎌倉殿の13人』という作品全体の旅路の、ある種の終着点といいますか、僕たちが辿ってきた道の1つの到達点のような気もしてなりません。頼家を討ったことが重くのしかかった2人の運命と、義時が下してきた決断が収斂されて、承久の乱へと向かっていく。お二人の眼差しに、そんなこともしみじみと感じました」

 ◇安藤 大佑(あんどう・だいすけ)2008年、NHK入局。最初の赴任地・佐賀局時代の10年には、ショートドラマシリーズの一編「私が初めて創ったドラマ 怪獣を呼ぶ男」(主演・星野源)の作・演出を手掛けた。12年からドラマ部。大河ドラマに携わるのは13年「八重の桜」(助監督)、14年「軍師官兵衛」(助監督)、17年「おんな城主 直虎」(演出・1話分)に続いて4作目。「鎌倉殿の13人」は第10回「根拠なき自信」(3月13日)、第14回「都の義仲」(4月10日)、第19回「果たせぬ凱旋」(5月15日)、第24回「変わらぬ人」(6月19日)、第28回「名刀の主」(7月24日)、第45回「八幡宮の階段」(11月27日)を担当した。

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