【内田雅也の追球】聖地で描く双葉たちの夢 やればできる、二十歳のつどいに育むことの大切さを思う

[ 2023年1月10日 08:00 ]

西宮市「二十歳のつどい」で三本締めを行う参加者(9日、甲子園球場)
Photo By スポニチ

 甲子園球場には、あいみょんの「双葉」が流れていた。西宮市で生まれ育った27歳は昨年11月5日、初めて甲子園球場で弾き語りワンマンライブを行い「西宮というこの街でシンガー・ソングライターになることを夢見てよかったなって思います」と感激していた。

 曲が終わると、高校野球で試合開始を告げるサイレンが鳴り響いた。

 成人の日の9日、西宮市の「二十歳のつどい」(旧成人式)が行われた。昨年4月に成人年齢が18歳に引き下げられたが、市長の石井登志郎が「社会に出て1年以上たって、進学や就職など選択をした時にみんなで会う方がいい」と従来通り20歳の集会に決めた。「皆さんもこれから何が正しいのか考え、悩む。選択の積み重ねです」と式辞を述べた。

 西宮市の成人式典は2020年から甲子園球場で開かれ、今回で4年連続。コロナ下とあって、初年度は行ったジェット風船上げなどは控え、簡素化して行っている。

 今年20歳を迎えた西宮市民は5396人。この日は3880人が集まった。小、中学校時代は連合体育大会(小連体、中連体)で甲子園球場の土を踏み、親しみを持っている若者たちだ。

 代表者としてあいさつした青年は「半年で大学をやめ、中学生時代に抱いた夢のため、起業しました。今は4つの会社を経営しています」と語っていた。夢を抱き、育むことの大切さを思う。

 きょう1月10日は1938(昭和13)年、この甲子園球場で全日本選抜スキージャンプ大会が行われた日である。主催は大阪毎日新聞社だった。

 左翼スタンドに高さ40メートルの櫓(やぐら)を組みジャンプ台をつくった。雪は妙高高原まで買い出しに行った。国鉄・田口駅(現妙高高原駅)から西宮駅まで貨車20両、さらにトラックで大量の雪を運んだ。当時の球場長・石田恒信は『続・甲子園の回想』で<今から思うと随分思い切った、途方もない催し><無茶(むちゃ)な話>と書いた。<不可能と思われた>大会は大観衆を集めた。やればできるのだ。

 野球の聖地、甲子園球場はそんな夢を描く場所なのだろう。あいみょんの「双葉」はわが子の夢を応援する母親の心情が歌われている。芽を出した双葉が花を咲かせ、実を結ぶ。甲子園球場は見守ってくれている。=敬称略=(編集委員)

続きを表示

2023年1月10日のニュース