【新井さんが行く!!】熱パ「伝説の10・2」 “最高の敗者”人目をはばからず泣いた藤井にも拍手を

[ 2022年10月4日 07:00 ]

新井貴浩氏
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 2022年10月2日はプロ野球史に深く刻まれる一日になった。最終戦で優勝が決定。それも逆転で。映画やドラマでしか描けないような結末だった。試合展開もまるで裏返し。オリックスは先制されながら逆転し、ソフトバンクは先制しながら逆転された。試合終了は約2分違い。両チームのファンだけでなく、すべての野球ファンの記憶に残った。

 2連覇のオリックスは山本と吉田正という絶対的な投打の軸がいても、先発オーダーは141通り。現役時代に3連覇した広島のような不動の布陣ではない。昨季に比べて不調の選手も少なくなかった中、中嶋監督のマネジメント力に敬服した。若い選手の適性を見極め、腹をくくって起用。戦いながら強くなった。難しいとされる勝利と育成の両立。その、お手本のような戦いだった。

 最高のドラマは勝者だけでなく、最高の敗者がいて成り立つと思う。最終勝率はまったく同じ。ソフトバンクも見事だった。痛む体にむち打って奮戦した柳田の姿には胸を打たれた。引き分けでも優勝が決まっていた142試合目の西武戦では3連投の藤井が延長11回にサヨナラ本塁打を浴びて号泣した。大の大人が人目をはばかることなく…。藤井とは広島でチームメート。静かに闘志を内に秘める男だと知っているから、どれだけの気持ちが込められていたのか伝わってきた。

 広島を戦力外になったのは20年オフ。セットアッパーに定着した今季、「あれだけの投手を、なぜ広島は出したのか?」という声も聞いた。あえて言うなら、戦力外になったことも、彼の道には必要なことだったと思う。1年間の独立リーグを経て育成でソフトバンク入り。開幕前に支配下に復帰した。苦しい経験をして、努力して、はい上がって、いまがある。あの悔し涙も同じように、これからの道に必要なことだったと思える日がきっと来る。もっと強くなってほしいし、強くなれるはずだ。

 選手それぞれに大切な物語があって、その集まりが大きなドラマを生むことを「10・2」が改めて教えてくれた。素晴らしい戦いを見せてくれた両チームに「ありがとう」と伝えたい。

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