大谷翔平も知らない 審判員の「退場!」その後の仕事

[ 2022年9月14日 08:00 ]

退場を宣告するNPBの審判
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 メジャーリーグで両軍指揮官が退場する珍事が起きた。エンゼルスは12日(日本時間13日)、ガーディアンズと対戦。7回、投球判定へ抗議したガーディアンズのテリー・フランコナ監督が退場処分に。さらに、マウンド上のエンゼルス・テペラが、試合の中断の影響でウォームアップの投球をしようとしたが、審判員に制止されて抗議。これにフィル・ネビン監督代行が加勢し、こちらも退場となった。

 11年から16年までNPB審判員を務めた私には何度も退場宣告の経験がある。2軍打撃コーチ時代のソフトバンク・藤本監督や、広島・バーデンらに「退場!」をコールしてきた。審判員の切り札ともいえる退場宣告だが、実は試合後にも「仕事」が待っている。12年5月12日に雁ノ巣球場で行われたソフトバンク―阪神の2軍戦を振り返りたい。

 退場の原因となったプレーは投球判定。ソフトバンクのカブレラは内角直球を見逃し、球審の私が「ストライク!」の判定。西武時代は55本塁打をマークしたスラッガーは「ここを通った」と示すようにバットで内角のボールゾーンに線を引いた。これは「侮辱行為」として自動的に退場になる行為で、私は即座に「退場!」と宣告。カブレラもソフトバンクベンチも納得せず、監督が抗議に飛び出してきたが、先輩審判で塁審の福家英登さんが対応して騒動を治めた。

 本当に大変なのはそれからだった。試合は続いているが、「本当にストライクだっただろうか…」や「もっと良い対応の仕方があっただろうか…」と雑念が心を支配する。退場宣告後は投球判定の精度を欠き、試合後の反省会では「しんどい時こそ頑張らなアカンやろ!」と福家さんに一喝された。

 宿泊しているホテルに帰っても仕事は続いた。カブレラに処分を下す判断材料となるNPBへの「退場報告書」を作成。これには「状況」、「プレーの詳細」、「会話や対応」、「適応した規則」などを記入する。パソコンなど扱ったこともなかった当時、完成させるまでに1時間以上も要してしまった。

 日付が変わっても、しばらくは「余韻」が続く。ソフトバンク以外のチームからも「退場させた審判員」として見られ、ベンチからのヤジも通常よりマシマシ。経験者は誰しも「退場なんかさせなければ良かった…」と思ったことがあるはず。だが、審判員である以上、必要があれば規則に従って「退場!」させる必要がある。たとえ、それが冒頭の試合のように1試合で2人でも。

 アマチュア担当になって3年目の記者。毎年、ドラフト会議前の繁忙期になると心の中でつぶやく。「しんどい時こそ頑張らなアカンやろ…」と。(記者コラム・柳内 遼平)

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2022年9月14日のニュース