【内田雅也の追球】これが9月の試合か 拙攻の虎…相手を上回る気迫はあったのか?

[ 2022年9月10日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神2-9DeNA ( 2022年9月9日    横浜 )

<D・神>3回2死一、二塁、ロハスは空振り三振に倒れる。投手上茶谷(撮影・北條 貴史)
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 敗戦後の阪神ベンチに横浜の夜風が吹き抜けた。冷たい秋風に驚く。もう9月なのだ。

 「ミスタープロ野球」長嶋茂雄が<野球選手にとって九月は格別な月>と著書『野球へのラブレター』(文春新書)に書いている。<勝ち組と負け組とをくっきり分けるペナントレースの総決算の月>なのだ。

 そんな月に阪神は惨敗した。確かに先発・藤浪晋太郎の乱調には困った。1点リードの5回裏、連打とバントの1死二、三塁。代打タイラー・オースティンの打席で、2つの暴投で同点、勝ち越し点を献上した。その後も四球から3連打を浴びて大量失点となった。飛球お見合いや三盗を許す凡守もあった。

 ただ、藤浪はさておきたい。それよりも気になったのは攻撃面である。

 1回表、連続四球でもらった無死一、二塁から近本光司適時打、大山悠輔犠飛で2点を先取した。問題はこの後である。1回はなお1死一塁に遊ゴロ併殺打で終わった。2回表は無死二塁で後続がなかった。3回表は1死一、二塁で4、5番が凡退。4回表も無死一塁でヒットエンドラン空振りの二盗憤死でつぶした。拙攻を繰り返した。

 DeNA・上茶谷大河の立ち上がり、あまりにも簡単に先制したために油断や気の緩みはなかっただろうか。油断が厳しければ、相手を上回る気迫があったかどうか。

 自身の打席で代打オースティンを送られ降板した上茶谷が、暴投での同点にどれだけ声を張り上げていたか。相手選手の立ち居振る舞いを見るにつけ、阪神ベンチのよどんだ空気を思う。

 栗山英樹は日本ハム監督時代、大量失点してズルズル負けた試合後、コーチ会議で「これ、日本シリーズ最終戦(つまり明日なき試合)でもこんな試合になっているの?」と問うた。高校野球の甲子園大会のように全試合、全力で戦うことができると自問自答した。

 同じことだ。これが9月にやる試合だろうか。

 長嶋は先の書で<野球は失敗のスポーツであり悩みのスポーツだが、常に次の試合があり――>と書いた。<あきらめない限り、チャンスは与えられる>。長嶋もいま、病床で闘っている。

 反撃姿勢も見えずに進んだ9回表、原口文仁の左前打に希望を見たい。病魔に打ちかった男の不屈が映るライナーだった。 =敬称略=(編集委員)

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2022年9月10日のニュース