【内田雅也の追球】「顕微鏡野球」が見る1秒07と1秒31

[ 2022年3月16日 08:00 ]

オープン戦   阪神3-3ソフトバンク ( 2022年3月15日    ペイペイD )

<ソ・神>6回1死一塁、セットポジションで投げるケラー(撮影・平嶋 理子)
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 新外国人投手が日本のプロ野球で苦しむのは制球とクイック投法に難がある場合である。

 クローザーとしても期待される阪神新外国人カイル・ケラーが初登板した。1回を1安打1三振で無失点だった。

 制球はいい。ストライク10球にボール4球だった。四球から崩れるタイプではない。それはメジャー・マイナーリーグ時代の成績も物語っている。奪三振数を与四球数で割った「K/BB」は通算521奪三振÷198与四球で2・63と上々の比率である。阪神が目をつけたのもうなずける。

 では、クイックはどうか。ちょうど、1死から中村晃に中前打され、走者を一塁に背負った。手もとのストップウオッチで投球タイムを計った。球種とタイム、結果を書き出してみたい。

 <打者・リチャード>
 (1)直球 1秒07 左飛

 <打者・上林誠知>
 (1)カーブ 1秒18 ファウル
 (2)カーブ 1秒16 空振り
 (3)直球 1秒09 ボール
 (4)直球 1秒14 ボール
 (5)直球 1秒21 ファウル
 (6)直球 1秒26 ファウル
 (7)直球 1秒31 ファウル(走者スタート)
 (8)カーブ 1秒28 空振り三振

 最速で1秒07、最も遅くて1秒31と、かなり差がある。クイックを使う時と、左足を大きく上げる時がある。投法を投げ分けているわけだ。

 タイムは一般に1秒2台で合格とされる。つまり、ほぼ合格である。それでも近年は1秒2台であれば二盗のチャンスありとみられる。

 だから、上林の7球目に中村はスタートを切ったのは驚きだった。ヒットエンドランだろうか。だが、この時のタイムは1秒31と遅く、投球がボールなら二盗成功だったのではないか。過去3シーズンで盗塁わずか1の走者を走らせてみようと思ったのは、左足を大きめに上げて1秒2台が続いたからだろうか。

 開幕まで残り10日を切った。いわば突貫工事の救援陣整備だ。まだ調整段階の新外国人に、細かな指摘はしたくない。

 それでも他球団スコアラーは同様にタイムを計り、攻略法を探っていたことだろう。国際的に見て、韓国が「顕微鏡野球」と呼ぶほどだ。日本の細かい野球がケラーを見ている。 =敬称略=
 (編集委員)

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2022年3月16日のニュース