西武・辻監督を育てた“お兄ちゃんたち”とのキャッチボール

[ 2022年1月8日 09:00 ]

佐賀で野球教室を行い、子供たちに丁寧に語り掛ける西武・辻監督(撮影・花里 雄太)
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 昨年12月、コロナ禍により、2年ぶりの帰郷となった地元・佐賀で、西武の辻発彦監督(63)が、思わぬ叱咤(しった)激励に苦笑いした。

 「ウチの弟とも野球の話をしたんだけど“フォアボールが多かもんね”って。みんながそう言うんだ。甥っ子もすごく詳しいからチェックされている(笑)。みんなが応援してくれて悔しがっている。元々、西鉄ライオンズがあったから、ここらへんは隠れライオンズファンが多いんだよ」

 地元にはたくさんの思い出が詰まっている。少年時代は、大工の棟梁だった父・廣利さんのもと、住み込みで働いていた“お兄ちゃんたち”がキャッチボールの相手だった。「いまだに“俺が発彦をここまで育てた”という職人さんがいる」と笑う。西鉄の大ファンだった廣利さんには、車で何度も本拠地の福岡・平和台球場に連れて行ってもらい、稲尾和久、中西太ら野武士軍団と呼ばれた当時のスターたちのプレーを鮮明に覚えている。

 「野球を通してここまでこられたから、恩返しですよ。少子化になって野球人口が減る中、佐賀県からもっとプロ野球選手が出てくれればね」。そう話すと真剣な眼差しで野球少年たちと向き合った。かと思えば「佐賀の第1回少年野球大会の選手宣誓をやったのは俺なんだぞ。もう52、3年前かな」とプチ自慢。緊張と緩和│。この姿こそ、指揮官の最大の魅力だ。

 18、19年に圧倒的な攻撃力でリーグ連覇を果たしたが、浅村(現楽天)が抜け、秋山(現レッズ)も海を渡り、チームは大きく変わった。一昨年は3位。そして昨季は、所沢移転初年度の79年以来、42年ぶりの最下位に沈んだ。巻き返しは容易ではない。それでも若手の台頭、最終盤で感じた山川復活の予兆、大成功に終わったドラフトに指揮官は「自信というか楽しみ。ワクワクしている。最下位より下はない。チーム力は間違いなく上がっている」とうなずく。

 まもなく、集大成となる就任6年目のシーズンを迎える。プロ野球選手への道筋を作ってくれた父は、新指揮官としての門出となった17年2月1日の夜に86歳で天国へ旅立った。強い運命を感じたキャンプインから、もうすぐ5年。野球教室の前日に訪れた墓前では「来シーズンは面白くなると思うよ。おふくろと一緒に楽しんでね」と手を合わせた。

 記者は残念ながら昨年限りで担当を離れてしまったが、ヤクルト、オリックスに続いて、今年はライオンズが最下位からの下克上を成し遂げてくれることを陰ながら応援したい。(記者コラム・花里 雄太)

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