セ・リーグのDH制導入論 現場の指導者や選手はどう捉えているのか 中日で取材を試みた

[ 2020年12月19日 10:30 ]

中日・与田監督
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 巨人が積極的に提唱する「セ・リーグの指名打者(DH)制導入」――。14日のセ理事会で他球団の賛同を得ることができず、来季の導入は見送られた。

 ただ、日本プロ野球選手会は一部の選手にアンケートを実施し、DH制導入に強い反対意見はなかったといい、近い将来に導入する可能性も出てきた。

 では、実際に現場にいる指導者や選手たちはDH制をどう捉えているのか。担当する中日で取材を試みた。

 与田監督は13日に放送されたNHK「サンデースポーツ」の中で「個人の能力を高める上ではDH制を採り入れることは賛成」と巨人の提案に反対意見を示さず、DH制のある試合、ない試合の両方をやった上でファンの意見を聞くべきだとした。

 パ・リーグの楽天で投手コーチを務めた指揮官は、これまでの取材でもDH制の導入について好意的に受け止め「いきなり全部の試合とかでなく、1カ月単位とかで区切ってやってみたらどうかな」と持論を述べている。

 ただ、いきなりの導入には否定的だ。というのも「ドラフトを含めた編成があるから」だという。確かに打撃に定評があっても守備に不安の残る選手はセ・リーグ球団は獲得に消極的になる。一方で、DH制のあるパ球団は獲得しやすい。そういった事情からDH制の導入は編成面を大きく左右するため、来季すぐの導入には懐疑的である。

 今季10完投が評価され沢村賞を受賞した大野雄は「投球に集中できるので大歓迎」とDH制の導入に賛同意見を表明した。

 確かにDHを導入すれば、投手に代打を送るというケースがなくなるため、先発投手は長いイニングを投げる機会には恵まれる。それがおのずと投手の成長につながり、ましてやその投手を打つ打者のレベルアップにもなるという意見がある。

 だが、興味深いデータもある。過去5年でパ・リーグが完投数で上回ったのは17年だけ。5年の完投数を総合すると、セは190試合の一方で、パは183試合。規定投球回に達した投手も5年でセが延べ47人に対しパは延べ50人とDH制が大きな影響を及ぼしているとは言い切れない。

 では野手陣の意見はどうか。14年ぶりに古巣復帰が決まった福留は「僕が1年間、DH制のある試合をしたことがないので、分からない」と前置きした上で「DH制のある野球もそれはそれで面白みもあるし、セ・リーグのように投手が打席に立った時のゲームの流れ、野球の面白さもある」とDH制の有無、両方に醍醐味(だいごみ)があるとした。

 今季、代打の切り札として存在感を見せた井領も「難しいところですね」と複雑な心境を口にする。DH制のないセ・リーグだからこそ「投手の代打で出られた」とチャンスの場面で仕事が回ってきた。一方で19年の交流戦ではパの本拠地球場で開催する試合はDH制のため、出場機会が増えたのも事実。それぞれの立場によってDH制に賛否があるのもうなずける。

 では球団としてのスタンスはどうなのか。加藤宏幸球団代表は「DH制を完全に否定はしない」と一定の理解を示す。

 ただ、ある球団関係者は今回、巨人が提案したDH制の導入に賛同を得られなかった背景に「野球の本質が変わる」と危惧する声が多かったからだという。現状、高校野球はDH制を導入していないが「プロがすべてDH制になると、高校野球も追随する可能性もある。そこをどう捉えるかだね」とこの関係者は続けた。「投げて打ってが野球の基本。エースで4番という選手がいなくなるのでは? もちろん、守備がちょっと…だけど打撃は抜群という選手にとってはチャンスが広がる。そこをどう議論していくか」と持論を口にした。

 DH制の導入にメリット、デメリット両方があるのは仕方がない。セ・リーグでの導入も数年前から議論されていると聞く。野球界の発展のため、結論を急がず議論を尽くす必要があると今回の取材を通して感じた。(記者コラム・徳原 麗奈)

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