【内田雅也の追球】「宿題」のノビとキレ

[ 2020年2月5日 06:30 ]

<阪神 春季キャンプ>シート打撃で高山に二塁打を打たれ、驚きの表情をみせる藤浪(撮影・平嶋 理子)
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 俗に「ノビのあるストレート」「キレのある変化球」などという。球質を表す、ノビやキレとはいったい何だろう。この正体を知りたいと思う。

 阪神の沖縄・宜野座キャンプで初のシート打撃が行われた。昨季0勝から復活を期す藤浪晋太郎の登板に注目した。

 結果は、打者5人に長打2本を許し、四球も1個与えた。時折「よいしょ!」と声が漏れながらの力投で、スピードガンの数値は直球は150キロ台、最高154キロを計測していた。2月初め、この時期の球速としては最高の部類だろう。

 気になったのは、球速ほど打者が速さを感じていないように見受けたことだ。投げた12球で空振りは取れず、ファウルも1本だけ。打者は普通にはじき返していた。

 藤浪本人も練習後の会見で「もっとファウルを取ったり、押し込めたりできたらいいかなと思いました」と話していた。そのためには「球速や球威は求めていません」と言う一方、要するに「まだまだストレートの質を高めたい」。問題の球質、ノビやキレである。

 プロ野球でも11球団(広島を除く)で弾道測定器「トラックマン」が導入され、投球や打球の分析は相当に進んだ。投球で言えば、回転数や回転軸のデータはふんだんにある。そこにノビやキレの正体は数字として出ているのだろうか。

 回転数の多い方が空気抵抗は少なく、打者は球速以上に速く感じる。なぜなら、打者は投球を最後まで目で追うことはできず「予測」してバットを振っているからだ。

 投球は必ず重力が働き、地面に落ちていく。打者が「浮いた」と感じる、藤川球児の「火の玉ストレート」は回転数が多く、予測以上に落ちないというわけだ。

 加えて重要なのが回転軸で、軸が傾くとシュート回転やスライダー回転となる。藤川の直球は軸が地面に平行なのだ。

 前日3日、宜野座で会った竹内孝行との雑談を思い出す。阪神球団本部部長(企画担当)としてトラックマンの分析も担当している。大リーグで視察した際の話が印象的だった。「回転数や回転軸のデータは集まった。“では、どうすれば良くなるのか?”と問うと“それはコーチの役目だ”と言われまして……」。

 球質向上の問題は元に戻り、野球人が口にする「ノビ」「キレ」となっていた。これは藤浪とともに今後の「宿題」としたい。=敬称略=(編集委員)

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2020年2月5日のニュース