姉妹金へ最高のバトン レスリング・川井友香子 背中追い続けた姉・梨紗子と同じ景色に「夢みたい」

[ 2021年8月5日 05:30 ]

東京五輪第13日 レスリング女子フリースタイル62キロ級 決勝 ( 2021年8月4日    幕張メッセ )

<レスリング女子フリースタイル62キロ級決勝>日の丸を手に笑顔でマットを1周する川井友香子(撮影・北條 貴史)
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 女子フリースタイル62キロ級決勝は川井友香子(23=ジャパンビバレッジ)が19年世界女王のティニベコワ(キルギス)に4―3で勝ち、今大会レスリング1号となる金メダルを獲得。姉・梨紗子(26=同)はリオ五輪で優勝しており、夏季五輪日本勢初の姉妹金メダリストが誕生した。57キロ級で5日の決勝進出を決めた梨紗子が勝てば、伊調千春、馨姉妹も達成できなかった姉妹同時金メダルの偉業を達成することになる。

 初めて立った、世界で一番高い表彰台の景色。友香子は右手に持った金メダルをじっと見つめ、涙をこぼした。「本当に夢みたい。今まで2位とか3位とかあとちょっとのところで負けてきた。5年前のリオで梨紗子に“あんな良い景色見たことないから見てほしい”って言われて、やっと見ることができた」

 過去1勝2敗だった宿敵に、0―1から「記憶がなくて気付いたら入っていた」という片足タックルで2点を奪い逆転。第2ピリオド終盤は4―1から追い上げられながら最後まで攻め続けた。勝利のブザーに両手で顔を覆い、目を赤くしながら観客で声援を送り続けた姉・梨紗子に手を振った。

 16年リオは姉が63キロ級で頂点に立つ様子を、家族とともに観客席から見届けた。その年の6月に左肩の手術を受けてマットから遠ざかっていた友香子は、喜びと同時に少しの寂しさも感じた。「一番近い存在だけど選手としてはどんどんかけ離れていくな」。それでも「いつかは追いつきたい」という思いは消えなかった。17年12月の全日本選手権でそろって優勝。一緒に東京五輪を目指すと決めた時に2人で階級を相談した。「梨紗子が考えてくれて、覚悟が決まった」。姉が制した階級で、世界一になった。

 3姉妹の真ん中で、レスリングを始めたのは妹よりも遅かった。姉と妹が89年世界選手権代表の母・初江さんのもとで指導を受ける傍ら、マットの片隅で一人で遊んだ。大会では引率で忙しい母にお菓子とゲーム機を手渡されるだけ。寂しさから帰りの車で「友香子もやる」と言い出した。外で遊ぶよりも家の中でお絵描きや手芸が好きだった子は「絶対いつかやめてやる」と思いながら、姉に劣らない負けん気で五輪の舞台まで来た。

 進学先、所属先と常に姉の背中を追ったが、母にはポツリと胸の内を漏らすことがあった。「どれだけ頑張っても、梨紗子の妹と言われる」。シニアの世界大会での優勝がなかった自分は過去になった。大好きな姉から卒業した友香子は、姉妹金へ最高のバトンを渡し「良い形でつなげられたかな」と誇らしげに笑った。

 《きょうだい金なら夏冬合わせて3組目》川井友が前回リオデジャネイロ大会の姉・梨紗子に続いて金メダル獲得。日本の「きょうだい五輪金メダリスト」は、18年平昌大会の高木菜那・美帆姉妹、今大会柔道の阿部一二三・詩兄妹に次ぎ3組目で夏季五輪で姉妹は初。そして別の大会で達成した初のケースとなった。姉はきょう5日の決勝で連覇と「同一大会の姉妹金メダル」も目指す。また、レスリング女子では伊調馨が04年アテネ大会からリオ大会まで女子の個人種目で史上初の4連覇。姉の千春がアテネ、08年北京両大会で銀メダルを獲得しており、姉妹メダリストになっている。

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