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【コラム】金子達仁

選手層厚くした森保采配 金に近づいた

[ 2021年7月29日 20:30 ]

東京五輪第6日 男子サッカー・1次リーグA組   日本4―0フランス ( 2021年7月28日    日産スタジアム )

 青柳は少しおかしかった。栗林にいたっては明らかにいつもとは違っていた。案の定、2人はドミニカに得点を許し、日本は絶体絶命の危機に追いやられた。

 なので、嫌な予感がした。先発に抜擢(ばってき)された上田と旗手。決勝トーナメント進出がかかった大一番。緊張しないはずがない。だが、過度に緊張した選手が2人もいれば、チーム全体が壊れてしまう可能性もある。とにかく心配だった。

 決断を下した森保監督からすれば、もちろん理由あってのことだっただろう。ただ、先発から外れた相馬は、林は、メキシコ戦のMVPといってもいい存在だった。結果次第では物議をかもすこと確実な決断でもあった。勇気が必要だったのは間違いない。

 結果的に、物議がかもされることはなくなった。というか、わたしにとって心配のタネだった2人の働きによって、フランスは急所を抉(えぐ)られた。

 特に、粘着質なトラップでポストプレーをこなし、柔らかな反転からゴールを脅かした前半の上田は、見事という他ない。ダイヤの原石を探しているスカウトたちも、いまごろ血眼になって上田につながるルートを探し始めたはずだ。

 勝ちはしたものの内容的には大いに問題のあったここまでの2試合と違い、この快勝には文句のつけようがない。いくら五輪のサッカーとはいえ、W杯王者相手の圧勝劇は世界的にもちょっとしたニュースになるはず。選手たちはもちろんのこと、賭けに勝った森保監督にとっても、大きな自信となったはずだ。

 ただ、フランスは情けなかった。情けなさ過ぎた。疲労のせい?いやいや、中2日の日程をこなしているのは彼らだけではない。

 さらに言うならば、0―2になるとギブアップしたとしか思えない態度でピッチを去ったサバニエには呆(あき)れさせられた。あなた、オーバーエージでしょ?苦しい時にチームを支えるのも仕事でしょ?

 三好の足をへし折りにいったとしか思えないコロムアニの悪質極まりないタックルには言葉を失った。皮肉好きな英国人の記者なら「アニマル」呼ばわりしていただろうが――66年のアルゼンチン代表にそうしたように。とにかく、この日のフランスに2度のW杯王者になった国の品格はまるでなかった。

 1次リーグの3試合を終えてわかったのは、高温多湿な状況下での連戦は、想像していた以上に選手たちを消耗させる、ということ。そういう意味では、早い段階で安全圏に入り、久保、遠藤、堂安といった選手を休ませられた意味は、非常に大きい。

 しかも、森保監督の思い切った采配が吉と出たことで、日本の選手層は確実に厚くなった。準々決勝には酒井が出場できないことになってしまったが、さしたるダメージにはなりそうもない。

 他の組を見てみると、有力視されたアルゼンチン、ドイツといった国が姿を消した。初戦では圧倒的な強さを見せたブラジルからも、当初の勢いは感じられなくなってきた。大会前に日本が掲げた目標は、着実に近づいてきている。

 次の相手はニュージーランド。油断できない相手であることは言うまでもないが、フランスやメキシコほどに危険な相手、というわけでもない。最大の敬意を払い、全力でキウイたちを叩きつぶす日本を期待する。(金子達仁氏=スポーツライター)

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