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【コラム】金子達仁

世界クラスへ歩み始めたパルマ正GK・彩艶

[ 2024年8月29日 07:00 ]

鈴木彩艶
Photo By スポニチ

 ウソかマコトか、イタリアでは18世紀と比べても、家庭で出される食事があまり変わっていない、という話を聞いたことがある。昔も今も、主食はいつもマンマのパスタ。江戸時代とは食生活が完全に別物になってしまった日本に比べると、保守的な食文化であることは間違いない。

 米国では瞬く間にそれなりの地位を築いた日本車も、イタリアでは苦戦が続いた。これは欧州全般に言えることでもあるが、新しいものに飛びつく身軽さ、モノが良ければすぐに評価する柔軟性は、米国や日本とはずいぶんと違っている。いまではずいぶんと増えた欧州でプレーする日本人選手だが、その増加のスピードは、メジャーリーグに比べるとかなり遅かった印象もある。

 それだけに、必ずしも多くの日本人がプレーしているわけではないイタリアで、それも半世紀以上にわたって世界的GKを輩出し続けているイタリアで、鈴木彩艶が定位置を与えられている、獲得しているという事実には驚くしかない。しかも、開幕から2試合を終えた段階で、受けている評価は最上級のものである。

 まして、鈴木が所属しているパルマは、タファレルやガッリ、そして何よりブッフォンがプレーしていたクラブである。GKを見るサポーターの目は、セリエAの中でも屈指の厳しさがあるといっていい。鈴木がクリアしなければならなかった、そしていままさに乗り越えようとしているハードルの高さは、カズや中田が挑んだものに匹敵するとわたしは思う。

 GKというポジションにコツはない。ストライカーのように、ある日突然開眼した、などという話も聞いたことがない。すべては経験。すべては積み重ね。ゆえに、ベテランが重用される。日本の中では決して精神的な落ち着きを感じさせる、というタイプではなかった鈴木がセリエAに適応するのは簡単なことではなかっただろう。ただ、先のアジア杯で苦い経験をしたことは、少なからず彼の財産になっているのではないか。

 アジア杯での森保監督は、徹底して鈴木にこだわった。結果的に優勝を逃した一因に、調子に乗り切れないGKを使い続けたことがあったのは間違いない。ただ、目先の勝利を捨ててもこだわるだけの理由が、根拠が、森保監督にはあったのだろう。W杯で上位に進出するには、世界レベルのGKが不可欠。そして、過去の日本サッカーにおいて、このポジションが世界から評価されたことはほとんどなかった。

 鈴木には、可能性がある――そう信じたからこそ、森保監督は起用にこだわり、結果として鈴木には相当に厳しい声が叩きつけられた。愉快な経験ではなかっただろうが、この経験なくして、果たしてセリエAでやれたかどうか。

 ベルマーレ時代の中田英寿は、多くのメディアと対立し、黎明(れいめい)期のネットでも罵詈(ばり)雑言を浴びることが多かった。だが、イタリアに渡ってからの彼は、苦笑交じりに「あの経験があったから、イタリアのファンやメディアが優しく感じられた」と振り返っていた。同じようなことを、鈴木も感じているのではないか。

 セリエAで、パルマで成功すれば、それは世界的守護神に一歩近づいたことを意味する。日本は、上位進出に不可欠な貴重なピースを手にすることになる。

 となれば、残るピースはストライカー。よくも悪くもどんぐりの背比べが続いているが、きょう発表の最終予選メンバーには誰が選ばれるか。個人的には、京都の原大智が気になっている。 (金子達仁=スポーツライター)

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