キダ・タロー 作曲なんと3000曲!“浪花のモーツァルト”その軌跡とホンネ

[ 2018年10月1日 12:20 ]

これまで3000曲を作曲してきたキダ・タロー
Photo By スポニチ

 関西を代表する作曲家、タレントとしても愛されるキダ・タロー(87)が12月で米寿を迎える。ABCテレビ「プロポーズ大作戦」のテーマ曲、「かに道楽」のCM曲など記憶に残る数々の名メロディーを生み出してきた“浪花のモーツァルト”。本紙取材に応じ、その軌跡と意外な本音を語った。人生を支える妻からの“束縛エピソード”も飛び出した。(萩原 可奈)

 5男1女の末っ子として兵庫県宝塚市内の警察官舎で生まれた。父は県警捜査一課の刑事で裕福ではなかったが、無理して私立の関西学院中等部に入学させてくれた。1年後に志願兵になる覚悟を決める中で終戦を迎え、「ほっとした」と回想する。

 戦後は空前の洋楽ブーム。家にある小さなアコーディオンを弾き始めた。同高等部で、同級生だった俳優の故藤岡琢也さん(2006年没)らとタンゴバンドを結成。「彼はバイオリンで甘い音を出し、バンドで一番うまかった」という。活動は順調だった。「大して弾けんのに、関学に通う御曹司が家で開くダンスパーティーによう呼ばれた。3曲しかないレパートリーを繰り返し演奏してお金もらえるんで、やめる手はないです」とニヤリ。当時、全盛だったキャバレーを回り、小遣い稼ぎもした。

 小さなアコーディオンでは弾ける曲に限界があり、ピアノに転向。父が亡くなり、高校卒業後に母と大阪に移住し、難波のキャバレー「パラマウント」にピアニストで雇われた。好きなことで稼げる音楽の道に、何となく成り行きで進んだ。

 18歳のころ、キャバレーの周年記念曲を任され、初めて作曲。当時、「双葉」の名で同所の歌姫だった「かしまし娘」の正司歌江(89)が歌った。最近、同曲復刻の話も浮上したが、誰も思い出せなかったため頓挫。納品した楽譜の多くは手元に残さないといい、記念すべき第1作も音源や楽譜が現存せず、幻の曲となった。

 その後、約10年間所属した関西有数のバンドではABCラジオの伴奏も担当。放送業界との関係が深まり、番組テーマやCM曲の依頼が増えた。今まで作った数は3000曲とも言われる。「最高傑作? 次の作品ですね。締め切りに追われ“今回はまあこれでええか、次はちゃんと書こう”と毎回思う」と苦笑い。だが、依頼元の社長の気持ちになって作るのが信条だ。「傍観者でなく、当事者の心になると馬力も出ます」。温かくユーモアも漂い、誰もが口ずさみたくなる楽曲は、そんな誠意から誕生した。

 ところで、浪花のモーツァルトの異名を本人はどう思うのか。「名づけ親はABCのプロデューサーとか嘉門達夫とか諸説あるけど、ありがたいです。自分ではよう言わんし」と喜ぶが、「実は俺、モーツァルト嫌いやねん」とまさかの告白。「繊細で情熱的なショパンの曲の方が好き。でも“浪花のショパン”では語呂が悪いもんなあ(笑い)」。

 米寿間近でも才能に衰えはない。「枯渇するほど曲作ってませんわ。注文が来たら、どないでも作れる」と語る。生まれ変わっても作曲家?「どうでしょう。何かオイシイ仕事ないかな(笑い)。オイシイというのは結局、適職に就けるかどうか。今世はピアノ、作曲で正解やと思います。トランペットも吹いてみたけど、どないもならんかった。来世も適性に合うもん探さなあきませんね」。

    ――――おしどり夫婦の“束縛エピソード”――――

 キダが好きな言葉は「愛とは責任といたわり」。妻はタレントの木田美千代(77)。33歳で結婚し、「曲作ったら、まず嫁に聴かせる」というおしどり夫婦。誓った愛は100歳になっても守るべきと、二人三脚で歩んできた。出会いは約60年前。歌唱指導を任された女性3人組「レモンレモンズ」の一員だった美千代にひと目ぼれした。結核で脱退した彼女の病床に毎日、ウナギやバナナを差し入れ。「タローさんの第一印象は老けてて最悪やった」という美千代を、何とか振り向かせた。妻に言わせれば「確かに責任といたわりはあるけど束縛もされた。やったらあかんこと、てんこ盛り!」。同窓会に行くのも、友達との観劇もダメ。自動車免許取得も「俺が通った時代の教習所はボロいアメ車に、柄悪い教官。あんな所に行かせられん」と禁じた。高齢者講習で久々に行った教習所の激変ぶりに驚きようやく解禁。NG連発は妻を思うあまりの行動だった。

 ◆キダ・タロー(本名・木田太良=きだ・たろう)1930年(昭5)12月6日、兵庫県宝塚市出身。高校卒業後プロピアニストとして活動。日清「出前一丁」のCM曲から、北原謙二「ふるさとのはなしをしよう」まで幅広く作曲。ABCテレビ「探偵!ナイトスクープ」などにも出演。代表作を集めたCD「浪花のモーツァルト キダ・タローのほんまにすべて」を発売中。

続きを表示

2018年10月1日のニュース