桂文枝「真田丸」入念準備で千利休&茶室に凄み 狭さに“違和感” 

[ 2016年6月19日 08:00 ]

大河ドラマ「真田丸」で千利休を演じる桂文枝(C)NHK

 落語家の桂文枝(72)がNHK大河ドラマ「真田丸」(日曜後8・00)で、わび茶の完成者として知られる茶人の千利休を演じ、存在感を示している。1964年の第2作「赤穂浪士」からという筋金入りの大河ファン。堺の商人の側面を色濃くした新しい利休像に、スタッフも舌を巻く入念な準備で挑戦。茶道の所作や落語と違うセリフ回しなど「難しいことだらけ」だった撮影を完走した。

 第21話「戦端」(5月29日放送)、利休の茶室。北条攻めに踏み切るべきかどうか、豊臣秀吉(小日向文世)に相談された利休は「おやりなはれ。殿下は今、お捨様(茶々との間の子ども)もお生まれとなり、大きな波に乗っておられる。しかし、波とは寄せては引くもの。この機を逃さず、一刻も早く日の本を治め、お子が安心して暮らせる世の中をおつくりくだされませ。北条をつぶしなはれ」と煽った。

 何かを企むような表情は茶人という文化人の域を超え、政治を裏で動かす“フィクサー”のそれだった。

 制作統括の屋敷陽太郎チーフプロデューサーは、今回の利休像について「単なる文化人とは違い、バックボーンは鉄砲作りが盛んだった堺の商人。経済をバックに力を持ち、政治をも動かし得る強力な存在だったということを暗示したいと思っていました。それも含めての戦国時代だと思うんです」と説明。

 文枝自身も「茶人という立場を超え、政治にまで絡む。そうでいながら、商人として堺の町を守るという強い信念を持っている。それなりの風格と、それなりに仕切る気持ちがないといけないということで、演じさせていただきました」と従来とは異なる利休像に果敢にアプローチした。

 最も苦労したのは、茶をたてるシーン。「とっくに(茶が)出来上がっているのに、長いセリフが続いているシーンがあって。ディレクターさんは『ところどころ(茶をたてるのを)休んでください』と。お茶の先生は『途中で休むことはない』と。それで、ゆっくりとやったら、今度は『湯が冷めるので、ダマになります』と言われて。『どないせえ』と言いながらやりました」と笑いを誘いながら振り返った。

 文枝の演技への熱量は、屋敷氏が証言する。

 「5分、10分のリハーサルも欠かさず、大阪から東京に来られて。絶対に準備を疎かにしない方です。リハーサル室の横に階段の踊り場があるんですが、影になっていて、誰かいても気付かない場所。ある時、そこから声が聞えるんです。リハーサル室に入る前、1時間も前に来て、文枝さんがお弟子さんを相手に何度も練習していました。これほど強い思い入れを持って参加していただき、ビックリしました」

 そのこだわりは、セットの茶室の大きさを決めるほどだった。第15話「秀吉」(4月17日放送)で、利休の茶室に秀吉、上杉景勝(遠藤憲一)、真田信繁(堺雅人)の4人が集う。「ちと、狭(せも)うおますなぁ」と利休。信繁はコミカルに“体育座り”のように体を縮める。

 リハーサルの数週間前に行われた茶の稽古時から、文枝は感覚鋭く、セットの茶室がそれほど狭くないことに引っ掛かっていた。「(脚本の)三谷(幸喜)さんの書いたセリフをよりよく表現したい中で、それほど狭くないと感じる茶室を狭いと言うのは…と悩まれていたみたいで。確かに、言われてみれば、それほど狭くない。利休さんの生理的には広いんだなと。監督、デザイナーと相談して、茶室の大きさを四畳半から三畳にしました。狭くしたからこそ、茶室に凄み、緊張感が出ました」。ひいては、利休の存在感にも凄み。屋敷氏は文枝の“提案”に感謝した。

 利休についても、徹底的に勉強した。文枝は「調べれば調べるほど、三谷さんの描く利休とかけ離れていくので、僕の調べた利休で落語を作らせていただきました」。落語の祖とされる僧侶・安楽庵策伝が千利休を笑わそうとする「利休伝」で、昨年12月に大阪・天満天神繁昌亭で初演。「ですから、ものすごい収穫があった『真田丸』だったと思います」と充実の大河ドラマ初挑戦になった。

 利休は秀吉に直言できる数少ない相談役だったが、いつしか2人の間に確執が生まれ、切腹を命じられる。三谷氏が利休の最期をどう描くのか、注目される。

 自身のクランクアップを迎えた文枝は「ホッとしたのと、ああしておけばという後悔と。もうちょっと出たかったというのはあります。利休が生き延びた説もあるんです。あとは三谷さんに懸けるといった状況ですね」とジョーク交じりに“再登場”を願っていた。

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