寅さん待つ天国へ 柴又の「おばちゃん」旅立つ 実家モデル団子店

[ 2014年12月5日 05:30 ]

高木屋に運び込まれた石川光子さんの棺

 映画「男はつらいよ」シリーズで、渥美清さん(96年に68歳で死去)が演じた車寅次郎の実家のモデルとなった老舗団子店「高木屋老舗」(東京都葛飾区柴又)の女将、石川光子さんが11月28日に肺炎のため死去した。93歳。東京都出身。三崎千恵子さん(12年に90歳で死去)が演じた「おばちゃん」のモデルで人情味あふれる人柄で親しまれた。

 4日午後6時から通夜が営まれたが、高木屋は同4時ごろまで営業。「どんな時でも店は閉めちゃだめだ」が光子さんの口癖だったため、直前まで接客した。若女将の石川雅子さん(57)は「何があってもお客さま第一と(光子さんに)教えられた」と話した。

 通夜に先立ち、午後3時ごろには棺が法被姿の従業員らの手で店の奥に運び込まれた。冷たい雨の中、つかの間の帰宅。すぐに斎場へ運ばれた。

 高木屋は柴又帝釈天(題経寺)参道沿いにあり、山田洋次監督(83)のお気に入り。フーテンの寅さんが何の前触れもなく帰ってくる団子店のモデルとなった。光子さんは寅次郎が「おばちゃん」と呼んだ叔母、車つねのモデル。世話好きで人情味にあふれ、緑やベージュの和服に白の前掛け、まとめ髪姿で映画のイメージそのままだった。

 遺族によると幼い頃、同店に養子として迎えられた。10代半ばから店先に立ち、約80年間接客を続けた。

 柴又の名物女将として、地域の人には「おみっちゃん」の愛称で親しまれた。元従業員の女性(72)は「60人もの従業員をまとめる、母親のような存在だった」と涙を拭った。

 柴又ロケの際には渥美さんら俳優陣に控室や着替え場所を提供。「映画がヒットしますように」との願いを込めて全員分の赤飯を炊き、必ず手料理を振る舞った。渥美さんは、光子さんの作る揚げ餅が好物だった。渥美さんが亡くなった後も「寅さんはいつか旅から戻ってくる」と願い、渥美さんが撮影待ちの際によく座っていた席に「予約席」の札を置き続けた。

 11月23日に体調を崩して入院したまま他界。私的によく訪れていた山田監督は同8日に、寅さんの妹役の倍賞千恵子(73)は同19日、光子さんと会っていた。山田監督は光子さんが亡くなった翌日の29日に駆け付け、顔を寄せるようにして「いろいろありがとう。お世話になりました」と伝えたという。

 告別式は5日正午から東京都葛飾区金町6の1の14、セレモニーホール島村会館で。喪主は長男の宏太社長(62)が務め、題経寺の住職が経を読む。高木屋は5日も店を開ける。

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