33年前とは違う 洗練された仙台育英の“たくましさ”

[ 2022年8月21日 04:06 ]

第104回全国高校野球選手権第13日・準決勝   仙台育英18―4聖光学院 ( 2022年8月20日    甲子園 )

肩を落とし甲子園球場マウンドの土を拾う仙台育英の大越基
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 【秋村誠人の聖地誠論】ついに決勝へたどり着いたというのに、仙台育英の選手たちは派手な喜びを見せなかった。同じ東北勢の聖光学院への思いか。それとも、まだ越えなければならない山が残っているからか。

 校歌を歌い終え、一塁側アルプス席に向かって一礼してナインは両手を突き上げた。でも、それだけだ。淡々と、静かに球場を後にする。「まだ喜ぶのは早い」。そんな思いが誰の顔にもあふれている。試合後の振る舞いに、3度目の決勝へかける決意が見えた。

 18―4。打線が19安打の猛攻で大量リードを奪えば、自慢の投手陣も3投手のリレーで決勝へ余力を残した。2回の11得点は同校1イニング最多得点記録だ。強打と投手力。持てる力を存分に見せつけた戦いぶりには、東北のチームの奥に秘めたたくましさが伝わってきた。

 思えば、みちのくのたくましさを強烈に感じたのが33年前だ。あの夏も甲子園には浜風が吹き、銀傘に拍手の音が大きく反響していた。平成最初の夏の甲子園。名将・竹田利秋監督に率いられた仙台育英は、大黒柱の大越基が全6試合838球を一人で投げ抜き、延長戦となった決勝で帝京(東東京)に敗れた。現在の球数制限なら、決勝には投げられなかった球数だ。試合後のこと。竹田監督から「よくやったじゃないか。さあ、少しだけマウンドの土をもらってこい」と言われ、涙をこらえ、マウンドの土をユニホームのポケットに入れる大越の姿は忘れられない。

 あの夏。「白河の関を越える日はそう遠くないな」と感じてから、もう33年がたち、元号も令和に変わった。仙台育英は15年にも決勝で東海大相模(神奈川)に敗戦。同じ宮城の東北も、光星学院(現八戸学院光星=青森)も、金足農(秋田)も決勝で分厚い壁にはね返された。だけど、この夏の仙台育英には「今度こそ」と思わせるたくましさを感じる。それは、33年前の泥くささとは違う。何か洗練されたようなたくましさと言えばいいのか。

 何かの因縁か。決勝は33年前と同じ8月22日だ。相手は勢いに乗る下関国際。そして大越は今、下関国際と同じ山口県下関市の早鞆で監督を務めている。先輩たちが、みちのくの球児たちが流した涙が、笑顔に変わるのだろうか。(専門委員)

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2022年8月21日のニュース