藤浪の先輩、大阪桐蔭主将「ミノルマン」が抱く「世界一の打撃指導」の夢、古武術も参考に米国進出へ

[ 2022年8月21日 12:31 ]

野球塾「アメイジング」で、選手の個性に合ったオーダーメイドの指導をする「ミノルマン」こと、広畑実さん
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 野球のレッスン動画で有名な「ミノルマン」のフットワークは軽い。勉強になると思う人がいれば、西へ東へ足を運ぶ。7月中旬には、米国ロサンゼルスへ飛び、ドジャース・アカデミーで本場のレッスンを視察した。

 11年に大阪桐蔭高の主将を務め、亜大では日本一も経験し、社会人野球のJR東海にも在籍した。アマチュア球界のエリート街道を歩んだ経歴にあぐらをかくことなく、知識を吸収し続ける。それが、「ミノルマン」こと、野球塾「アメイジング・ベースボールパートナー」を経営する広畑実さん(28)のスタンスだ。

 「野球で日本一、世界一の指導者になりたいと思っていて。何をもって日本一、世界一かは分からないけど、一つの物差しが、人から求められる数だと思っている。誰よりも頼られるようになるためには、学ばないといけないと思っている。だから、一生学び続けようと思っている」

 打撃レッスンの内容はバラエティー豊かで独創的だ。それもそのはず、“元ネタ”は、古武術、陸上のハンマー投げ、フィギュアスケート、スピードスケートなど、様々なスポーツからヒントを得ている。編み出した教え方、いわゆる「ドリル」は、「だいたい270通り」もある。

 普通の素振りをさせることは、ほぼない。重いボールを投げさせたり、ゴルフのようなスイングをさせたり、慣例的なメニューにとらわれない。「ドリル」に取り組んでいたら自然と正しい体の使い方を覚えた―というのが理想で、「例えば、体が開く子がいる。その子に開かないことを意識させると、子どもはダメになるので」と信念を口にする。まるで、凄腕の整体師が、ひじが痛いにもかかわらず、足首を触って痛みを取り除くようなアプローチだ。

 常に勝利を求められるチームでプレーをしてきた人が、「上から叩け」や「ゴロを打て」と言わず、「ホームランを打てるスイングをしよう」と伝えることも興味深い。理由は「本塁打が一番難しい技術だから」。技術を身につければ、パワーや素質だけに左右されず、誰にでも本塁打を打つチャンスがあるというのが持論。逆を言えば、その技術があれば、ゴロもケースバッティングもできるようになる。そう考え、大きく育てている。受講生は、小学生からNPB選手まで幅広い。

 指導の一端は、インスタグラムや、YouTubeで見られる。野球教室、オンラインレッスン、動画配信の三位一体の事業展開で、大阪府内に2店舗、名古屋に1店舗の教室を構える。ビジネスマンとしてもやり手だ。

 JR東海では現役を1年でやめ、社業に専念した。右ひじの手術がユニホームを脱ぐ引き金になったが、直接的な理由は「自分はプロになれない」と力の差を感じたからだ。

 しかし、野球熱は冷めなかった。

 新大阪駅で駅員をしながら、野球少年に無料レッスンを始めた。仕事中の新幹線の改札口で時折、かつて戦ったことがあるプロ野球選手と顔を合わせたことも、「プロにはなれなかったけど、野球で勝ちたい」という反骨心につながった。休日を利用して、ちまたの野球塾や野球チームを訪問し、知識を蓄えた。鉄道大手に4年務めたのち、20年8月に脱サラ。野球塾を開いた。初めてもらった謝礼の5000円の感動は、今も忘れていない。

 強豪の大阪桐蔭高時代は、勝ち運に恵まれなかった世代の主将だ。3年時は、春も夏も全国大会に出られなかった。阪神・藤浪を擁した1学年下は、12年に甲子園の春夏連覇を達成しただけに、コントラストは鮮明だ。

 通算で「17~18本塁打」を打った高校時代に、イップスになった。小学低学年で父・忠さんを亡くした。トミー・ジョン手術もした。プロになる夢にも破れた。華やかな経歴の影に隠れた苦労があるからこそ、「なぜプロにいけなかったか、自分はそれが分かる。それを子どもに伝えることに価値がある」と、今の仕事に使命感を持っている。

 7月。広畑さんは米国で新鮮な光景を目にした。選手への指導は、一に基礎、二に基礎、三、四がなくて、五も基礎というほど、基本技術を大切にしていた。“身体能力頼みのパワーの国”という認識は、情報が少ない時代につくられた幻想。スイングも、捕球も、送球も、指導方法が確立され、きめ細やかだった。「日本に足りないものはこれだと思った」。逆に、日本の指導の優位性も発見した。心に決めた。米国で野球塾を開いて、本場で勝負する。来夏、「アメイジング」の米国校を設立する計画だ。

 米国のように、日本でも野球塾が広がっている。オンラインレッスンであれば、広畑さんのような優れた指導を、日本、いや世界中のどこにいても受けられる。家庭の経済的事情が許せば、子どもたちにとって、恵まれた時代になった。

 その一方で、広畑さんは「どちらかと言うと嫌われる存在です」と苦笑いする。広畑さんに限らず、野球塾の指導者は、選手の所属先での活躍や将来を考えて教えているにもかかわらず、既存のチームから煙たがれた経験を持つ。チームの指導者は、教えたことがないスイングをする選手を見て、複雑な心境になるのだろう。

 その感情を理解できなくもないが、ネット社会の進化により、競技の深い知識を持つ親が増えることが予想される。それに伴い、野球塾の需要はますます高まるだろう。時代の流れを考えると、チームの指導者は、野球塾を否定するのではなく、その力を利用した方がプラスなのは明白だ。選手の成長を後押ししてくれ、何より、野球塾に通う選手を通じ、指導者自身が技術的な知識を得られる。もちろん、野球塾の指導者も玉石混淆で、レッスンの方向性がその選手に合っていないと感じれば、チームの指導者が別のドリルやメニューで、成長を補ってやる必要があるだろう。

 選手を育てるベストな方法は何か。塾とチームの力がミックスされ、成功体験を積む選手が増えることを願う。(倉世古 洋平)

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