プロ入り続々鹿児島の無名私立大 おおらか育成で才能開花

[ 2015年10月21日 10:00 ]

“和製バレンティン”と話題を呼んだ喜界島出身の原。14年ドラフトでヤクルトから指名を受け第一工大からプロ入り

 いよいよ2015ドラフトだ。例年以上にスター揃いの甲子園で活躍した高校生選手や、即戦力と期待される大学生投手が林立する状況のなか、各球団がどのような指名に踏み切るのか。興味を見出せばキリがない“運命の日”が、今年も目前に迫った。

 そこでNPB入りを希望する高校・大学生に義務付けられたプロ志望届の提出者リストをあらためて眺めてみたところ、注目すべき校名に目が留まった。第一工業大学。現在11季連続で鹿児島地区リーグを制しているものの、全日本大学選手権や明治神宮大会への出場経験が一度もないことから、全国的には無名に等しい鹿児島県の私立大学である。しかし、過去8年の間に藤原良平、美沢将、福倉健太郎(いずれも西武)、原泉(ヤクルト)の4選手をプロ球界に送り込み、今年も3名の選手が志望届を提出しているのだ。

 まずはプロ志望を表明した3選手を紹介しておこう。

 呉念庭(う・ねんてぃん)は台湾出身で高校は岡山共生高を出ている。サイズは174センチ、72キロながら広角に長打を打ち分けるパンチ力を備えた右投げ左打ちの遊撃手だ。また、豪快に引っ張ったかと思えば逆方向に鮮やかな単打を運ぶなど、バットコントロールも素晴らしい。ちなみに父はバルセロナ五輪の銀メダリストで、現在は台湾プロ野球・中信兄弟エレファンツで指揮を執る呉復連(う・ふーりえん)監督。呉監督は今秋のプレミア12でも台湾代表のヘッドコーチを務める予定で、現地台湾では「呉の息子がNPB入りなるか」といった関心が日に日に高まっているそうだ。

 鹿児島地区リーグで5度のベストナインに輝いた久木田雄介は、183センチ、80キロの大きな体をロスなく動かすことができるバランスの良さが光る。右投げ右打ちの内野手で、地元のれいめい高出身。チームでは主に三塁手としてプレーしたが、内野ならどこでも守ることができるユーティリティさと、ミート中心に高打率を残してきた打席での確実性もなかなかのものだ。

 もうひとりが投手の國場翼。181センチ、80キロで右投げ右打ち。148キロの直球に空振りの奪えるフォークを武器に、3年秋シーズンの最優秀投手、ベストナインに輝いたパワーピッチャーである。沖縄の具志川高時代は素質を評価されながらもチームに勝ち上がるだけの力がなく無名の存在に終わったが、大学在学中に持ち前のスピードボールが150キロ付近を叩くまでに進化。プロ志望届を提出するまでの投手に成長を遂げている。

 彼らを4年間指導した岡留浩紀監督は地元の国分中央高から中大へ進み、2001年から第一工業大の指揮を執っている。大学時代の恩師にあたる宮井勝成元監督からアドバイスを受け、持ち前の“おおらかさ”を前面に打ち出して新興のチームを束ねてきた。

 岡留監督の育成は選手の失敗を容認することに最大の特徴がある。「失敗を繰り返すたびに現れる課題を克服させ、小さな成功体験を重ねながらスキルを上げていくというのがウチのやり方です」と胸を張った。

 また、スカウティングにおいては体の大きさや見栄えの良さを参考にすることはあっても、それ以上の先入観は持たない。高校の練習試合では主力チームのみならず、2、3試合目に組まれたBチームの試合まで目を通し、全選手のチェック。ほんのささいな将来性を見出すことができれば、何度も足を運び熱意を伝えていくのが岡留流だ。今年の國場が岡留監督の目に留まったのは、まだ具志川高校1年時。ちょっとした普段のキャッチボール姿だけで“ドラフト候補育成請負人”は獲得を即決したのだった。

 こうした岡留監督のスカウト力と熱意が、12年前に藤原良平という才能との出会いを実現させ、その後は藤原や美沢らの前例にあやかろうと、多くの無名の原石たちが最後の可能性に賭けて鹿児島へ集うようになった。

 南日本で次々に孵化(ふか)する金の卵たち。もし、複数指名ということになれば、もちろん学校創立以来の快挙となる。また、今年の3人が揃って指名されるようなことになれば、8年間で7人の指名選手輩出ということになり、こちらも地域リーグを戦う地方大学にとっては超異例の金字塔だ。

 昨年は “和製バレンティン”と話題を呼んだ喜界島出身の原を、ヤクルト入りさせることに成功した岡留監督。今年は3選手の同時指名で話題をかっさらい、全国の目を鹿児島に向けさせようと勝負を仕掛けてきた。成功か、失敗か。その答えはまもなく明るみになる。

 ◆加来慶祐(かく・けいすけ)九州沖縄をメインフィールドとして、アマチュア野球を中心に取材活動を展開しているスポーツライター。過去には第2回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)日本代表、北京五輪ソフトボール代表などの取材実績もある。

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