【内田雅也の追球】『君よ九月に熱くなれ』 日本一への道はちゃんとある

[ 2022年8月24日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神0-4DeNA ( 2022年8月23日    京セラD )

<神・D>6回無死、柴田の打球を横っ跳びで好捕し、遊ゴロとする中野(撮影・北條 貴史) 
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 『君よ八月に熱くなれ』のドーナツ盤を持っている。夏の甲子園大会のダイジェスト番組『熱闘甲子園』で使われ、有名となったが、もとは1977年放送『あゝ甲子園』のテーマソング。当時中学生で駅のレコード店で買った。市立西宮高野球部出身の俳優、高岡健二が歌っている。

 B面は『真っ赤な風』という。勇壮な『君よ――』とは対照的に、夏から秋をイメージした哀愁に満ちた歌詞(作詞・阿久悠)、メロディー(作曲・中田喜直)だ。<あなたがあおぐ青空に 夏の終わりの赤とんぼ 群れて真っ赤な風になる 秋を教える風になる>

 朝、散歩で訪れた甲子園球場周辺は残暑厳しいなか、赤とんぼもいた。二十四節気の「処暑」を迎え、季節は秋に向かっている。甲子園大会は仙台育英の東北勢初優勝で幕を閉じ、大旗が初めて白河の関を越えた。

 これからはプロ野球である。熱かった球児たち以上の熱闘を見たい。

 ナイターの京セラ。阪神は結果で見れば完敗だった。青柳晃洋が立ちあがりから苦しみ3回まで毎回失点。打線は今永昇太に食い下がったが無得点。7、8、9回も先頭打者を出したが本塁は遠かった。零敗は実に今季22度目を数える。

 それでも、たとえば、4回裏にファウル3本に際どい球を見極めて四球を選んだ木浪聖也、スタメン抜てきに応え、2安打した原口文仁、6回表先頭の中前に抜けようとするゴロを美技で仕留めた中野拓夢……など、心の熱さは見えた。

 優勝争いが白熱する9月の戦いを大リーグで「セプテンバー・ヒート」と呼ぶ。現実的に見れば、首位ヤクルトと10ゲーム差の3位、残り27試合。もう優勝などと絵空事を言える時ではない。

 だがクライマックスシリーズ(CS)がある。その先には日本シリーズ進出、日本一もある。

 重松清の『熱球』(新潮文庫)に、無名高から甲子園を目指す少年を元球児の主人公が励ますセリフがある。「甲子園までは死ぬほど遠いけどな、でも、ちゃんと道はあるんだ。どの学校にも甲子園につづく道はあるんだ。近いか遠いかの違いだけなんだ。その道をさ、それぞれ進んでいくしかないんだ、みんな」

 日本一への道はちゃんとある。9月に熱くなるための正念場である。 =敬称略=
 (編集委員)

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