吹くか みちのくの“負の歴史”払う秋風

[ 2022年8月22日 04:00 ]

第104回全国高校野球選手権第14日・決勝   仙台育英―下関国際 ( 2022年8月22日    甲子園 )

笑顔で甲子園球場を眺める仙台育英ナイン(撮影・後藤 大輝)
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 【秋村誠人の聖地誠論】みちのくの夢はかなうのだろうか。吹き抜ける浜風も、降り注ぐ夏の陽光も、ずっと甲子園は変わらない。なぜ、東北勢だけ拒み続けるのかは分からない。甲子園に棲む魔物の仕業なのか。どうしたら女神は振り向いてくれるのか。長い負の歴史に終止符が打たれるのなら、その戦いは一瞬たりとも見逃さない。

 決勝前日。2校にだけ許される甲子園練習が行われた。夜半の雨の影響で内野は使えず、グラウンドでは外野の芝でキャッチボールやランニングだけ。あとは室内練習場となったが、両校の選手たちから変な緊張感は伝わってこなかった。いつも通り。下関国際ナインの表情には勢いを感じたし、対して仙台育英ナインに「東北勢初優勝」というプレッシャーは少しも感じなかった。白河の関をあと1勝で越えられるというのに、だ。

 白河の関は福島県と栃木県の県境にある古代の関所の一つだ。これまで本州で最北の優勝校は作新学院(栃木)。深紅の大旗は駒大苫小牧(南北海道)が空路で飛び越えさせたが、東北の地へ持ち帰った学校はない。1915年の第1回大会の秋田中(現秋田)が決勝で敗れてから東北勢の夏の決勝は9戦9敗。それでも、今夏の仙台育英は過去の準優勝校にはないエース級を5人そろえた強力投手陣を持つ。今年の選抜の優勝校・大阪桐蔭、準優勝校・近江を撃破した下関国際の勢いを5本の矢で止められるかがポイントだろう。

 かつて、奥州合戦へ向かう源頼朝が白河の関で家臣の梶原景季に詠ませた和歌がある。

 秋風に 草木の露を 払はせて 君が越ゆれば 関守もなし

 秋風が裾を濡らす露を払ってくれました。あなた(頼朝)が越えられるならば、誰もその行く手を阻めないでしょう、という意味だ。源頼朝は合戦に向かう前のことだったが、仙台育英が決勝に勝てば、深紅の大旗がこの関所を越えるのを阻む者はいなくなる。

 甲子園が終われば季節はもう秋だ。白河の関では、露を払う秋風も吹き始めるだろう。新たな歴史はつくられるのか。この夏のラストゲームをしっかり見届けたい。(専門委員)

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2022年8月22日のニュース