「羽生結弦」が歩む、唯一無二の道

[ 2022年7月21日 16:30 ]

19日の会見で決意表明した羽生結弦(撮影・小海途 良幹)
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 彼を知ったのは、いつだろうか。記憶をたどれば、それはきっと東京で開催された09年のGPファイナル。名前を見て、なぜか思った。「負けた」と。

 僕の名前をつけてくれた親に恨みはまったくないが、彼を示す漢字4文字の印象と、読みの響きに、強さと美しさを感じた。うまくは言えない。ただ、圧倒されたことは鮮明に覚えている。

 実際に、彼は強く、美しかった。

 他のスケーターがうらやむタイトルを積み上げ、世界最高得点を何度も更新。クワッドアクセル(4回転半ジャンプ)への果敢なアタックもあった。「同じ演技って1つとしてない。その時、その会場、その日でしか生まれないもの」。そう、彼の演技は一期一会。練習から、一瞬たりとも目は離せない。

 現場にいようが、テレビで見守ろうが、パソコンを立ち上げ、彼の名前を変換する時、いつも僕の鼓動は早く、手は汗ばんでいた。

 19日の会見では、競技会に出場せず、プロに転向することを表明した。4回転半への挑戦を続け、さらなる進化を誓った、前向きな会見。まだ具体は伴わなくても、今後への意欲は熱を帯びた。

 「本当に全力でやっているからこその緊張感みたいなものを、また味わっていただけるようなスケートを常にしたいと思っているので。むしろ、もっと緊張させてしまうかもしれないし、もっともっと緊張するかもしれないですし、僕自身も」

 一般的に、現役を引退したり第一線から退いた選手は名前の後に「さん」や「氏」が必要となる。だが、彼の会見を聞けばまだ不要だろう。

 「引退でも何でもないので。ここからさらにうまくなるし、さらに見る価値があるなって思ってもらえる演技をするために、努力をしていくので」

 これまでも、今も、これからも。羽生結弦は、羽生結弦にしか歩めない道を進む。あの凛とした緊張感とともに。
(杉本 亮輔)

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