なぜ稲垣は「そこにいた」のか?魔法のようなトライショーの裏にあった“ルール”

[ 2019年10月15日 21:30 ]

<日本・スコットランド>前半、逆転のトライを決める稲垣(撮影・吉田 剛)
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 「おそらく、そこにいたからトライ取っただけの話」

 今どきの言葉で言えば“塩対応”か。13日のスコットランド戦で、プロップ稲垣啓太が奪った代表初トライに対する藤井雄一郎強化委員長の回答が、素っ気なくて面白かった。そして発言を反復するうち、「そこにいた」ことの凄みを感じる。念のために補足すると、同強化委員長の発言は「彼はフィットネスもスキルも高い選手。ゲームのシステム上、コンタクトする場所にいつも立っている。オフロードでつないで忠実にサポートした結果」と続く。最大級の賛辞だろう。

 前半25分、相手陣右中間のラックからSH流→SO田村とフラットに近いパスでつながれ、続く受け手のフッカー堀江の前には、相手No・8トムソンが間近に迫っていた。普通ならここでスローダウンさせられるところだが、そこが堀江の凄いところ。少し左にずらしてもらい、コンタクトしたや否や右に360度回転。次の相手にはタックルを食らいながらも右手一本のオフロードでムーアへ。ムーアの片手オフロードは速くて低かったが、FBトゥポウは両手でしっかりキャッチ。FBホッグを右ステップで交わし、最後は後ろから迫ってきたCTBハリスに捕まりながら、左をフォローした稲垣にラストパスが渡った。ボールが出てから、わずか10秒間のトライショーだった。

 8月10日のパシフィックネーションズ杯の米国戦では、流→堀江→リーチと2本のオフロードがつながるトライが生まれた。世界に先駆け2月4日に代表活動を開始し、「ファンデーション1」と命名された期間に基礎スキルの反復練習を繰り返した成果が出たトライだったが、この時を上回る3本のオフロードをつないだばかりではなく、その1人がロックであり、フィニッシュしたのがプロップという事実は素晴らしい。

 ジョセフジャパンで「スモー」の呼称を与えられているFW第1、2列の選手は、プレーするエリアが限定されている。したがってトライが生まれる場面では下働きが多くなり、プロップの選手が決定機でボールを持つチャンスはかなり限定される。ではなぜ、稲垣はあの位置を走り込めたのか。

 試合翌日の14日、リーチ主将が会見で語った言葉で解決した。「試合に出ている選手でルールがある。もし前に出てストラクチャーから離れてボールが前に出たら、自由にプレーしようというルールをつくった」。ラックからボールが出る場面、稲垣は田村、堀江、ムーアと並んださらに外にポジショニングしていた。オフロードパスによって一気にゲインラインを突破し、一度はボールのある位置から離されたが、そこで「ルール」が生きた。一気に加速し、トゥポウからラストパスをもらった。もし稲垣がフォローしなかったら、トゥポウは倒され孤立していた。勝ち越しトライが生まれることはなかった。

 ここからは個人的な予想だが、稲垣のトライはW杯決勝翌日の11月3日に東京都内で行われる、ワールドラグビーの年間表彰式で、「トライ・オブ・ザ・イヤー」の候補に挙がるだろう。もし受賞が決まったら、タキシード姿の稲垣は、どんな表情を見せるだろうか。やはり、笑わないのか。それを見るのが楽しみで仕方ない。

 5つの候補は10月30日に発表される予定だ。(阿部 令)

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