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辛抱強さとフェアプレー 必然だったスペインの勝利

[ 2010年7月13日 14:33 ]

<オランダ・スペイン>勝利の瞬間、ガッツポーズで喜ぶMFイニエスタ

 スペインの初優勝で幕を閉じたW杯南アフリカ大会。理想的なサッカーで頂点にたどり着いた無敵艦隊、勝つサッカーに徹したオランダ、そして自国開催以外で初の決勝トーナメント進出を果たした日本――。元日本代表監督のフィリップ・トルシエ氏(55=FC琉球総監督)が大会を総括した。

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 大会前から本命と言われた今大会のベストチームが勝った。得点こそ、さほど生まれなかったが、ゲームの主導権を握るチームが優勝したことに価値がある。決して身体能力に恵まれたわけでもなく、それでも勝利の立案者であり、心臓部を担ったMFイニエスタはスペインの象徴だ。どんなワナを仕掛けられても崩れない鉄のようなコンセプト、フェアプレーには敬意を払いたい。

 一方、オランダは巧妙で頭脳的な戦術でスペインを苦しめた。W杯決勝という舞台。ゲームを壊したくない主審は早い時間帯でのレッドカード提示をどうしてもちゅうちょする。その心理をつき、序盤から悪質でファウルギリギリのプレーを挑発的に仕掛けた。いいサッカーではなく、勝つためのサッカーに徹した姿勢は尊敬に値する。しかし、スペインが冷静だった。逆に言えばオランダをそこまで追い込んだスペインの勝利は必然だった。

 もちろん、オランダにも勝つチャンスはあった。MFロッベンがGKと1対1になった場面で、スペインのGKカシージャスが奇跡的に右足にボールを当てなければ、だがね。前から激しいプレッシャーをかけ続け、相手のコンセプトを壊そうとする強い意志も感じた。しかし、最後はスペインの辛抱強さと、フェアプレーの勝利だった。大会前、私はオランダを優勝候補に挙げていた。予想は外れてしまったが、決勝まで来たのだから、許してもらえるだろう。

 むしろ、決勝を見て審判のあり方を考えさせられた。主審はゲームのディレクターだ。ルールはあるが、両チームの精神的な要素に配慮する必要もある。私は、審判に新たな“武器、権利”を与えるべきだと思う。例えば、試合を壊さない程度に、ファウルを受けた側に最大限のアドバンテージを与える時間限定の退場などはどうか。オランダの戦術をみて、審判のあり方という課題が浮き彫りになった。ぜひ、検討してほしい。

 これで1カ月間のW杯は幕を閉じた。いろいろな出来事があったが、やはりサプライズがW杯のだいご味だろう。優勝候補といわれたイタリア、ブラジルが早々に姿を消し(母国の)フランスはそもそも今大会出場していたのだろうか?そして日本、韓国、ウルグアイという小国は念願の決勝トーナメント進出を果たしたのだが、待っていたのは“夢の墓場”。ことごとく夢破れる瞬間を目の当たりにした。

 世界のサッカー地図は変わった。アジアの国も確実に進化し、1試合に限れば、欧州の強豪とも戦えることを証明してくれた。しかし、長期的にみれば、どうだろう。例えばスペインと日本が10回戦えば、日本が勝つのはせいぜい1試合だ。決勝に進んだスペインとオランダは大会に入ってから徐々に調子を上げてきたチームであり、それがW杯の現実なのだ。日本が世界のトップを争う常連国になるためには、まだまだ歴史を積み重ねていかなければならない。(元日本代表監督、FC琉球総監督)

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2010年7月13日のニュース