「なつぞら」なぜ泣けるのか 脚本・大森寿美男氏が“容赦なく”描く人間関係 草刈おんじ&小なつ熱演

[ 2019年4月14日 14:00 ]

視聴者の涙を誘った連続テレビ小説「なつぞら」第9話の1場面。家出したなつ(粟野咲莉)を見つけ、抱き締める泰樹(草刈正雄、左)(C)NHK
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 NHK連続テレビ小説の節目の100作目「なつぞら」(月~土曜前8・00)がスタートして2週間。連日、視聴者の涙を誘っている。2007年の大河ドラマ「風林火山」などで知られる脚本家の大森寿美男氏(51)が巧みなストーリー展開と名台詞を紡ぎ、俳優の草刈正雄(66)子役の粟野咲莉(8)らキャストが熱演で体現。視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)も22%前後で好調に推移している。「なつぞら」はなぜ泣けるのか。お茶の間が涙に濡れた2週間を振り返る。

 「64」「精霊の守り人」「フランケンシュタインの恋」、映画「39 刑法第三十九条」「風が強く吹いている」などでも知られる大森氏が03年後期「てるてる家族」以来となる朝ドラ2作目を手掛けるオリジナル作品。戦争で両親を亡くし、北海道・十勝の酪農家に引き取られた少女・奥原なつ(広瀬すず)が、高校卒業後に上京してアニメーターとして瑞々しい感性を発揮していく姿を描く。

 第1週「なつよ、ここが十勝だ」(4月1~6日)、第2週「なつよ、夢の扉を開け」(8~13日)は昭和21年(1946年)初夏、亡き父の戦友だった柴田剛男(藤木直人)に引き取られて十勝にやってきた9歳のなつ(粟野)を描いた。

 SNS上には「毎回泣かされる」の声もあるが、この2週間(12話)のうち、大きな“泣きポイント”は3回あった。

 第4話(4日)は、なつが柴田家の祖父・泰樹(草刈)に連れられ、帯広へ。菓子屋・雪月でアイスクリームを食べながら、泰樹が現代にも通じる労働哲学を静かに語った。

 「それは、おまえが搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る。報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ。だが、一番悪いのは、人が何とかしてくれると思って生きることじゃ。人は人をアテにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるのだ。おまえはこの数日、本当によく働いた。そのアイスクリームは、おまえの力で得たものだ。おまえなら、大丈夫だ。だから、もう無理に笑うことはない。謝ることもない。おまえは堂々としてろ。堂々と、ここで生きろ」

 “草刈おんじ”の圧倒的な説得力。その言葉に黙って耳を傾け、自然と涙があふれた“小なつ”粟野の表情は見る者の胸を打った。

 第9話(10日)は、東京にいる兄・咲太郎(渡邉蒼)に会いたいと家を飛び出したなつを、泰樹ら柴田一家が帯広の河原で見つける。

 なつは「どうして私には家族がいないの!」と初めて感情を爆発。「もっと怒れ。怒ればいい」と語る泰樹は声を上げて泣き叫び、走り出したなつを抱き締める。「おまえにはもう、側に家族はおらん。だが、ワシらがおる。一緒におる」――。簡単に「ワシらが家族だ」とは言わない大森氏の筆が冴え渡った。草刈は体が震える入魂の演技だった。

 また、この回は語りを務めるお笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」の内村光良(54)がなつの戦死した父親役と判明。初回から毎回ラストに「なつよ」と呼び掛けるナレーションが、それまでと異なる意味を帯び、これも視聴者に感動を呼び起こした。

 第12話(13日)は、戦争で家屋を失って一家で北海道に移住したものの、政府にあてがわれた荒れ地を前に離農寸前になった正治(戸次重幸)を泰樹が一喝した。

 「事情なんか、クソ食らえだ!大人の事情で、この子らがどうなった?この子らに何をやったんだ、大人が!今はせめて、この子らが何をやりたいのか、子供の話だと思わず、そのことを今こそきちんと大人が聞いてやるべきだろ!」

 草刈は16年の大河ドラマ「真田丸」の真田昌幸を彷彿。その後、なつが「おじいちゃん、大好き」と泰樹に抱きつくシーンも涙もの。それまでの「おじいさん」という距離感のある呼び方から“家族”になった瞬間だった。

 インターネット上には「初めて朝ドラ(なつぞら)を見ているけど、この2週間くらいで1年分以上の涙が出た」などの書き込みが相次いでいる。

 制作統括の磯智明チーフプロデューサー(CP)は序盤のテーマは「家族」で「血のつながりのない柴田家に引き取られた戦災孤児のなつが、時にはぶつかり合いながら、どのようにして新しい家族に溶け込み、絆をつくっていくか。家族のドラマとしては、なつと泰樹のぶつかり合いに収斂しています」と解説した。

 なつと泰樹の関係性については「脚本の大森さんは、上辺じゃない人間関係を非常にストレートに描くのが持ち味。孫とおじいさんという関係を飛び越えた1人の人間同士のぶつかり合いとして、なつと泰樹の関係を容赦なく描いてほしいとお願いしました」と説明。この“容赦なく”がキーワードのように思える。

 泰樹ら柴田家を取り囲む北海道の自然は容赦ない。戦災孤児になったなつの境遇も容赦ない。“容赦なく”は言い換えれば、本音。容赦ない環境の中から生まれる本音のぶつかり合いだからこそ、今の時代に突き刺さる。

 「1人の人間同士のぶつかり合い」で言えば、第4話のアイスクリームの場面。自身の演技に納得いかなかった粟野は「もう1回やらせてほしい」と自らリテイクを申し出たという。草刈も子供扱いはしない。1人の役者として向き合った。

 15日からは第3週「なつよ、これが青春だ」に入り、本役・広瀬すず(20)が本格登場。昭和30年(1955年)初夏、18歳になったなつは牧場を手伝いながら、農業高校に通っている。NHKによると、ワクワク感あふれる展開やコメディータッチの場面が増えるという。さらに視聴者を魅了してくれそうだ。

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