脚本家・中園ミホ氏が語る“西郷どん”の魅力「歴史好きはもちろん、歴史を知らない人にこそ見てほしい」

[ 2018年1月6日 10:00 ]

「西郷どん」の脚本を手掛ける中園ミホ氏(C)NHK
Photo By 提供写真

 俳優・鈴木亮平(34)が主演を務めるNHK大河ドラマ「西郷どん」(日曜後8・00)が7日スタートする。脚本を手掛けるのは、鈴木の顔と名前がお茶の間に浸透するきっかけになった14年NHK連続テレビ小説「花子とアン」を担当した中園ミホ氏(58)。林真理子氏(63)の小説を原作に、薩摩の下級武士の家に育った西郷隆盛が、藩主・島津斉彬や勝海舟、坂本龍馬らと出会い、革命家となって維新を成し遂げる姿を描いていく。中園氏に初挑戦となる大河への思いや意気込みを聞いた。

 ――「西郷どん」の脚本を書くにあたって“軸となる”大切にしている部分を教えてください

 「日本人なら誰もが知っている歴史上の偉人ですが、林真理子先生の原作タイトル『西郷どん』のように親しみやすい西郷を生き生きと描きたいと思って書いています。島津斉彬、大久保利通ら日本史の年表に出てくるような人たちばかりですが、実際はどんな人だったのかなと、時代考証で監修に入っていただいている歴史学者の磯田道史さんに詳しく取材をしています。文献の中からどんな食べ物が好きだったか、どういうエピソードがあるかと伺って、登場人物が有機体となるように生き生きと描きたいと思っています」

 ――磯田先生から聞いた面白いエピソードはありますか?

 「エピソードの宝庫なので、いろいろありますが、作家・司馬遼太郎さんも「西郷という虚像に驚いているうちに終わってしまった」とおしゃっているように、西郷は捉えどころがない人です。どうやってイメージをつかもうかと考え、磯田さんに“西郷さんってどんな人ですか?”と聞いたら“西郷さんは餅のような人です”と。お餅を2個並んで焼くとくっついて同化してしまう。それくらい近くにいる人の心の寄り添いすぎてしまうような人だったらしいと。どうしてあんなに男にも女にも愛されたのか、西郷のために命を懸けて尽くそうとしたのか、西郷の魅力を描く際のヒントになっています。情の濃い人だったと思いますし、特に弱い人の気持ちに寄り添う人だったと思います」

 ――主演を務める鈴木さんの演技に触発された部分はありますか?

 「最初から鈴木さんを思い浮かべて書いていました。ただ、鈴木さんが想像以上に体をつくられていたので、イメージ以上に“野性的”になっていると思います(笑い)。上野の像など、西郷さんにはもっさりしたイメージがあると思いますが、本当はそうではなかったと思う。狩りもやっていましたし、もう少し精悍で躍動感ある人だったと思ってます。ユーモアも凄くあった人みたいです。鈴木さんも誠実で努力家で頭がいいのですが、一方で大胆な部分がある。西郷さんもきっとそんな方だったんじゃないかなと。面白い共通点もいろいろあると思います。うなぎが二人とも大好きとか(笑)」

 ――女性目線という部分について、林真理子先生とはどのような話をしましたか?「2人で歴史の先生をお招きして勉強会をしていたのですが、食事をしていても“村田新八いいよねえ”とか、“私は西郷従道みたいな人に惹かれる”とか、そんな話をしました(笑)。西郷と大久保のこともいろいろ話しました。“こんな人だった、こんな女性が好きだったのでは”と。そのような見方が女性目線といえるのかもしれませんが、それ以上に林さんの骨太な原作があるので、そこから思い切って“ジャンプ”して、多くの人に楽しんでいただけるエンターテインメント作品にしたいと思っています」

 ――幕末は男っぽい世界ですが、登場する女性たちはどのように描かれていますか?

 「男尊女卑の時代とはいえ、鹿児島の女性は大変強いですね。私は強い女を描くのが好きなのです。西郷の3人の奥さんも、大久保の奥さんも皆それぞれ強いものを持っていたと思います。人間関係も楽しみにしてください。今回は歴史考証の先生方に相談しながら“本当にこんな人だったのではないかな”と想像しながら書いてます。素敵な男の周りには素敵な女がいるのだなと。周りの女性を書くのは楽しい。西郷を愛し別れていった女性たちは、それぞれ全く違ったタイプの女性ですから楽しみにしてください」

 ――たくさんの愛がちりばめられた作品と会見のときに言っていましたが、注目してほしい愛は?

 「全部の愛に注目してほしいですね。前半の見どころは島津斉彬と西郷隆盛の“忠義を超えた愛”だと思います。愛加那との部分では男女の愛を書いてますし、大久保との関係も愛だと思う。子どものときからずっと一緒でお互いに刺激しあって高め合っていった。だが、対立する関係に変わっていく。それはお互いを想う愛が強いからこそなのではと思います。あらゆる愛が毎話ちりばめられていると思います」

 ――「西郷どん」ではどのようなメッセージを贈りたいと思っていますか?

 「西郷も大久保も逆境の人なんです。数年程、辛酸を嘗めていて表舞台が引っ込んでいた時代が皆あるんです。それも理不尽な理由で。西郷は合計5年、一番活躍したい時期に流されていたし、大久保も蟄居(ちっきょ)といって家から出られないような時期があった。その経験がその人を大きくしているような気がします。西郷の人生は逆境の連続。侍なのに右腕の腱を痛めて剣術ができなくなるのは大変な挫折だったと思う。逆境がこの人をこういう人間にしたのだなと注目すると、一層魅力的に見えてきます。現代は先が見えない時代だとか言われていますが、逆境というのは必ず皆に起こることだし、そういうことが人を強くするんだなというメッセージはおくりたいと思っています」

 ――朝ドラは書き方が違うと思いますが、大河を書き始めての印象は?

 「書き始めたときには、西郷のイメージを掴んだつもりでしたが、“あれ?こんな一面もあったのではないか”と、どんどん人物が育っている感じです。はかりしれないスケールの人なので、掴んだと思ったらその奥にもっと大きなものが見えたという感じで、一年に渡って1人の人物を描くことはとても刺激的なんです」

 ――「西郷どん」を楽しみにしている視聴者にメッセージをお願いします。

「歴史好きな人はもちろんですが、歴史を知らない人にこそ見てほしいなと思います。歴史に強くない私自身が、興味津々で書いています。あの時代の、維新の若者たちの群像劇は面白い。西郷も追いかければ追いかけるほど、もっと大きなものが見えるような大変スケールの大きな人。皆様には1年間・西郷どんに惚れていただきたいですね」

続きを表示

この記事のフォト

2018年1月6日のニュース