藤本隆宏 五輪メダルなしの悔しさ、俳優で晴らした

[ 2016年12月18日 11:40 ]

俳優デビュー20年を迎えた藤本隆弘
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 【俺の顔】NHK大河ドラマ「真田丸」で真田家家臣の堀田作兵衛を演じ注目されている俳優・藤本隆宏(46)。元競泳日本代表で88年ソウル、92年バルセロナ五輪に出場し、舞台俳優に転身した異色の経歴を持つ。来年は俳優デビュー20年の節目の年。最近はテレビドラマでの活動が続いていたが、人気公演「アニー」で9年ぶりにミュージカルに挑む。

 1メートル83、92キロ、水泳で鍛えた肩や胸板ががっちりとした体格。演じる役も剛毅(ごうき)な男が多いが、素顔は語り口が柔らかく、真摯(しんし)に話す姿勢から繊細さと生真面目さがにじみ出る。端正な顔立ちで女性ファンも多く、街中で気づかれることも増えたといい「声を掛けていただけるのはありがたいことです」と大きな体を小さくして恐縮した。

 6歳から水泳を始め、18歳の時にソウル五輪に出場。89年には200メートル、400メートル個人メドレーで日本記録を樹立し、バルセロナ五輪は400メートル個人メドレーで8位入賞。93年からオーストラリアに水泳留学し、毎日2万5000メートル泳ぐハードなトレーニングをしていたが、思うように成績が伸びず、違う道を模索していた時にミュージカル「レ・ミゼラブル」と出合った。

 「劇場のお客さんの姿が、五輪会場でレースを見ているお客さんと重なったんです。泣いたり笑ったり拍手したり、そこで生まれるライブ感や感動は同じ。次に一生懸命になれる場所は舞台だと思いました」

 ダンスも歌も経験はなかったが、劇団四季の募集を見つけ、電話帳でバレエ教室と音楽教室を探して1カ月間練習。オーディションでは「努力だけは誰にも負けない。私は努力の天才」と訴え狭き門を突破した。「やれば夢はかなうというのはスポーツが教えてくれたこと。それを信じて俳優の世界にも入りました」

 劇団四季を退団後も舞台で活動していたが、09年にNHK「坂の上の雲」の主要キャストに起用されたことが転機になった。連続テレビ小説「花子とアン」(14年)など話題作への出演が続き、存在感を見せている。活躍の場が広がるにつれて、しこりのように残っていた五輪でメダルに届かなかった悔しさが薄れてきたという。「日本記録が破られるくらいまでは悶々(もんもん)としていました。でも、少しずつ役を頂き始めてから吹っ切れるようになった。今は、ほぼゼロに近いですね」と充実の表情を見せた。

 映像作品に専念するため舞台を離れていたが、来年4月22日に開幕する「アニー」(5月8日まで東京・新国立劇場。8月に大阪、仙台などで公演予定)では、主人公アニーと心を通わせる大富豪ウォーバックスを演じる。オファーを受け1カ月ほど悩んだといい「ずっと舞台をやっていない不安もあったし、これまで三田村邦彦さんや目黒祐樹さんら年上のベテランの方が演じてきた役なので、自分ができるのかと葛藤があった。でも、やっぱり好きなんですよね、ミュージカル」と顔をほころばせる。

 情が深い役どころと同様、自身の性格も「子供好きで動物好き。涙もろい」という。「製作発表でアニー役の子役2人のコメントを聞いていて涙が出そうになりました。大変な競争をしてここまで来たんだなと思うと感動して、ちゃんとやらなきゃいけないと改めて思いました」

 来年は、97年に劇団四季「ヴェニスの商人」で初舞台を踏んでから20年。「今年はたくさんの仕事をやらせていただきました。リオ五輪もあり、自分の中で五輪の節目は新しいスタートが切れるという気持ちを強く持てる。そういう意味でも来年は新たなスタートで初心に帰りたいと思うし、また舞台の魅力に取りつかれて舞台の方に進んでいく気がします」

 年に1回は米ブロードウェーを訪れミュージカルを見る。いつかその舞台に立つことが目標で「渡辺謙さんの“王様と私”も見に行って、いいなと思ったし憧れます。自分も可能性がちょっとでもあるならやらなきゃいけないと思う」と挑む覚悟だ。

 今も月に5、6回、スイミングクラブで子供たちを指導。休日は大好きな米プロバスケットボールNBAの試合を見るなど、スポーツは生活から切り離せない。「スポーツ選手のセカンドキャリアで、スポーツを引退した後も夢を持ってやれば何かできるというのを証明したい。選手生活が終わると精神的に弱ったりする人もいるので、自分が頑張ることで励みになればいいと思っています」。その活躍がアスリートの希望になる。俳優として、再び世界の大舞台で戦う日も遠くなさそうだ。

 ◆藤本 隆宏(ふじもと・たかひろ)1970年(昭45)7月21日、福岡県出身の46歳。高3の時にソウル五輪に出場。89年に早稲田大学人間科学部に進学。バルセロナ五輪では8位入賞。95年に劇団四季に入団。競泳は96年に日本選手権3位で引退。劇団四季退団後は蜷川幸雄氏演出の舞台などに出演。09年にNHK「坂の上の雲」でドラマデビューして以降、TBS「JIN−仁−完結編」、NHK大河ドラマ「平清盛」などに出演。コンサートも行っている。

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