【100歳甲子園球場物語】数々の熱闘を彩った手書き職人の名人芸 「名物」スコアボードの裏側
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今夏8月1日で開場100周年を迎える阪神甲子園球場にまつわる逸話を振り返り、掘り起こす連載「100歳甲子園球場物語」を始める。第1回は手書きだった時代の「甲子園文字」がデジタル化、永久保存されることになった名物のスコアボードを取り上げる。
金沢健児(56)は今もよく覚えている。扉を開け、狭いくぐり戸のような出入り口から体をかがめて入った。階段を上がった。
スコアボードは3階建てだった。のぞき穴から見つめたグラウンドでは報徳学園のエース・4番、金村義明が躍動していた。
1981(昭和56)年8月。甲子園球場のグラウンドを管理する阪神園芸甲子園施設部長は中学2年生だった。前年、肩を壊して野球を断念していた。
「健ちゃん、もう野球やめて、夏休み、何もすることないんやろう。スコアボードでアルバイトしてみんか」
誘ったのは「甲子園の土守」と呼ばれた名物グラウンドキーパーの藤本治一郎(故人)だった。金沢の母・静江が甲子園球場職員として勤めており、面識があった。手書き時代のスコアボードを知る数少ない証人である。
夏の選手権大会期間中、連日朝7時から通った。主な仕事は「得点出し」。得点板を引っかけてひっくり返した。のぞき穴から見て得点を数えた。小型テレビでも確認できた。さらに本部席の操作で得点が入る度にブザーが鳴り、得点数のランプがともった。戦前からの装置である。
校名板、選手名板は3人いた職員が筆で書いた。明朝体に似た独特の文字である。
「見事でした。あれはまさに職人の名人芸。下書きもせず、マス目もない。ほとんど話もせず、黙々と次々と仕上げていました」
板は縦107センチ、横68センチ。乾きやすく、消しやすい白鉛粉を水に溶かした。大きな9号筆を使って書いた。
金沢は試合ごとに文字を消し、水洗いして雑巾で拭き、乾かす役目もしていた。
職人の中でも房安清澄(故人)は神戸市の自宅がすぐ近所だった。母が甲子園球場で働くようになったのも房安の紹介だった。
房安はベテランだった。64年に阪神電鉄入社。67年、球場へ異動となり、スコアボード係を命じられた。野球好きで阪神ファン、文字を書くのが好きで、格好の職場だった。
スコアボードは色や形が似ているため「潜水艦」と呼ばれた。房安は「艦長」だった。
文字は明朝体が基本だ。戦前の古い写真でも明朝体だったことが確認できる。さらに房安は独自に工夫していた。「明朝体は遠くからだと間延びして見える。ちょっと扁平(へんぺい)に書いた方が読みやすい」。独特の「甲子園文字」としてファンに親しまれた。
ただ、スコアボードは電光掲示に変わることとなり、83年12月に解体となった。房安は17年間勤めた「船」が取り壊されるのを静かに見つめていた。
84年3月には新たに電光掲示板に生まれ変わった。色や形も従来のまま、受け継がれた。2011年にはシルエットだけでそれとわかる「凸」の形が立体商標として特許庁の認可を受けた。
「甲子園文字」も伝統を受け継いでいる。今年3月13日、「100周年記念プロジェクト」の一環としての発表があった。日本を代表するフォントメーカー、モリサワ(本社・大阪市浪速区、社長・森澤彰彦)が「甲子園文字」を受け継ぎ「甲子園フォント」を制作するという。プロジェクトの記念にあす17日の巨人戦はモリサワの冠協賛試合となる。
フォントは12月完成予定で来年からスコアボードで表示される。デジタル化でいわば永久保存されるわけだ。
スコアボードは甲子園球場完成翌年の1925(大正14)年3月、木造の得点板を右中間席後方に設けたのが始まり。「スコアボールド」と呼んだ。33年夏の全国中等学校優勝野球大会(今の選手権大会)で、中京商―明石中が延長25回を繰り広げた際には、はしごを横にして急場をしのぎ、最後は作業委員が「0」の板を掲げた。
翌34年3月には高さ12・4メートル、鉄筋コンクリート3階建てのスコアボードがセンター後方に完成した。
84年完成の現スコアボードは3代目。伝統を守りつつ、LED化、大型ビジョン化……と改修を重ね、熱闘を彩っている。 =敬称略=
(編集委員・内田 雅也)
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