【内田雅也の追球】「時」を操る快投 間合い、フォーム、球速すべてで緩急を用い、タイミングをずらした

[ 2023年4月3日 08:00 ]

セ・リーグ   阪神6-2DeNA ( 2023年4月2日    京セラD )

6回を無失点におさえ、雄叫びをあげる才木(撮影・岸 良祐)
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 手もとのストップウオッチを使って投球間隔を計ってみた。大リーグが今季から導入したピッチクロックの要領で、投手は無走者時15秒、走者がいる時は20秒以内で投球しなければ、ボールがカウントされる。

 今季初登板で初勝利の阪神先発・才木浩人は7回表1死一塁で降板するまで二塁を踏ませない好投だった。タイムを計ってわかったのは間合いの使い方のうまさである。

 立ち上がり、1回表無死一塁からの3者連続三振はカウント球で12~15秒台。追い込んでからの決め球を投げる前は宮崎敏郎に18・2秒、大田泰示に17・0秒、牧秀悟に21・7秒と長い間合いで投げ込んで仕留めた。

 3回表、8、9番には6~8秒台と速いテンポで2死。佐野恵太四球で走者を背負うと、宮崎を19・4秒で追い込み、22・6秒で三ゴロに仕留めた。5回表2死一塁での佐野も25・3秒で二ゴロと要所では長い間合いで打ち取っていた。

 走者がいない時もセットポジションから投げるが、セットする時間を微妙に調節している。また走者の有無に関わらず、時折クイックモーションをまじえていた。中盤以降に使いだした緩いカーブも効果的だった。

 つまり、間合い、フォーム、球速すべてで緩急を用い、タイミングをずらしていたわけだ。大リーグ左腕投手で歴代最多の363勝をあげたウォーレン・スパーンが語っている。「バッティングはタイミングだ。ピッチングはタイミングを狂わせることにある」

 「詩人は野球の投手のごとし」とピュリツァー賞4度受賞の米国の詩人、ロバート・フロスト(1874―1963年)が書いている。「詩人も投手も、それぞれの間(ま)を持つ。この間こそが手ごわい相手なのだ」

 原文(英文)では先の間は「モーメント」、後の間は「インターバル」。投手で言えば投球フォームとテンポだろう。才木はバッテリー間の時間を操り支配していた。

 未明にテレビで見た藤浪晋太郎の大リーグ初登板はピッチクロックに戸惑っているように見えた。時間超過でのボール判定もあった。時計に追われて投げ急ぎ、単調になったのではないか。

 「タイムレス」と言われ、野球は本来、時間制限のない競技だ。才木も他の投手も15秒、20秒以上がいくらもあった。ただ、この間合いの駆け引きも、だいご味だと考えている。 =敬称略=
 (編集委員)

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2023年4月3日のニュース