クラーク・佐々木監督が大阪桐蔭ベンチを一喝 元NPB審判員記者が珍事を解説「餅は餅屋に」

[ 2022年11月20日 13:32 ]

明治神宮野球大会第3日 高校の部 準々決勝   大阪桐蔭12―2クラーク ( 2022年11月20日    神宮 )

応援スタンド前に集合するクラーク・佐々木監督(左端)=撮影・郡司 修
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 大阪桐蔭とクラークの準々決勝で異例の場面があった。

 1―0の2回、大阪桐蔭が2点を加えてなお2死一、二塁。クラークの投手が投球動作に入ってからも、大阪桐蔭ベンチから声出しが続いていた。そのためクラークの佐々木啓司監督がベンチ内から「いつまで声を出しているんだ!」と大声で大阪桐蔭ベンチを注意した。その後、投球動作中の声出しはなくなった。

 試合後の会見では大阪桐蔭・西谷浩一監督は「何かを誘発するようなことはダメだ、という認識。声を出すことがダメだということであれば、こちらの認識不足」と話した。
 
 一方、クラークの佐々木監督は「投手が投げようとしている時に“ワーワー”言っていること自体が野球じゃない。紳士的にやらないとダメ。(注意してから)だいぶトーンが低くなったよね」と振り返った。

 11年から16年までNPB審判員を務めた記者が(1)適用される規則(2)なぜ異例の事態が発生したか(3)まとめと対応措置、の3点から解説する。

(1)適用される規則
 NPBや大学野球などすべてのカテゴリーで適用される公認野球規則、高校野球で適用される高校野球特別規則には当該の場面を取り締まる規則はない。

公認野球規則6.04【競技中のプレーヤーの禁止事項(3)】には「ボールインプレイのときに“タイム”と叫ぶか、他の言葉または動作で明らかに投手にボークを行わせようと企てること」とあるが、大阪桐蔭ベンチからの声は「ボーク」を誘発させるようなものではないため、この規則は適用されない。

規則上は大阪桐蔭・西谷監督の主張が正しい。

(2)なぜ異例の事態が発生したか
 投球モーション中の「声だし」は規則書には禁止と書かれてはいないが、マナー違反として審判員が注意を行うこともある。選手がマナーを徹底しているNPBでは実際に注意される場面は少なく、6シーズン審判員を務めた私も注意したことがない。アマチュア球界では高校、大学などの各カテゴリーで「声出し」への注意が行われているが、どこまで注意するかは連盟や地域によって基準の違いがある。

 明治神宮大会は全国の地区から高校が集結。各地区で声出しに対する注意の基準が異なる可能性があり、両監督の意見が真っ二つに分かれた。規則に書かれていない「アンリトン・ルール」が混乱をもたらした。

 また、今大会はブラスバンドによる応援が禁止されており、応援演奏が鳴り響いた今夏の甲子園大会などに比べると球場は静かで、よりベンチからの声が聞こえやすい状況にあったことも事態を引き起こす一因になっただろう。

(3)まとめと対応措置
 (1)(2)を考慮すると、クラーク佐々木監督の行為は越権行為といえる。現場の審判員は各地区の違いなどを総合的に考慮してジャッジにあたる。注意するかは審判員に一任するべきであり、プレーを止めてまで監督が相手ベンチを注意するべきではなかった。もし、疑義があるならば伝令を通して球審に伝えることも可能だった。現場の判断権限は審判員にあり「餅は餅屋」に任せるべきだった。

 両チームは来春の選抜出場が当確している。甲子園で同じような騒動が起きないためにも、高校野球特別規則に明文化するか、審判員に判断を任せるという意識を各校に浸透させるなど対応が求められる。(アマチュア野球担当・柳内 遼平)

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