【内田雅也の追球】本物に必要な疾走精神

[ 2021年2月19日 08:00 ]

練習試合   阪神6ー2DeNA(特別ルール) ( 2021年2月18日    宜野湾球場 )

<D・神>7回、二塁強襲の適時二塁打を放ち、右翼手の処理ミスで三塁まで進んだ佐藤輝
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 阪神新人、佐藤輝明が見せた打棒は確かにものすごかった。18日の練習試合・DeNA戦(宜野湾)。4安打に特大弾。低めも高めも、速球も変化球も打った。スターになる夢を膨らませた。

 打撃以上に目を見張ったのは走塁である。1回表の先制二塁打は右翼線への弱めの打球で、二塁を奪ったものだ。7回表2死一塁での勝ち越し決勝二塁打は二塁強襲の猛ゴロが右前に転がり、二塁を奪った。右翼手の処理ミス(失策)で三塁まで陥れた。いずれも、全力で駆け、果敢に次塁を狙う姿勢が出ていた。

 「走塁もすごい良かった」と監督・矢野燿大もたたえた。「ああいうのはタイガースの野球として大事にしている部分、次の塁を狙うというね。打つだけじゃないというところが見られた」。同じ感想を抱いた。

 矢野が大切にする敢闘精神は打者なら「凡打した時の全力疾走」、投手なら「打たれた後のバックアップ」に顕れる。

 「凡打疾走」の精神だが、佐藤輝はこれまで凡ゴロがなかった。唯一、今月4日、キャンプ初の紅白戦(宜野座)の初打席で二ゴロがあった。この時、手元の計測の一塁到達タイムは4秒33と平凡だった。スコアブックに記してある。強めの正面へのゴロで、一塁は楽々アウトだったからだろう。一塁手捕球後は誰だって速度を緩める。

 実戦で疾走姿勢が表立って見えたのは、この日が初めてだったわけだ。

 何度か書いたが、大リーグ通算3154安打のジョージ・ブレット(ロイヤルズ)は引退を前に「現役最後の打席で平凡なセカンドゴロを放ち、間一髪アウトになりたい」と語っていた。念のため、ブレットは左打者である。99年の野球殿堂入りスピーチで語った「常に全力でプレーした選手として記憶に残りたい」という姿勢である。1970―90年代、球界を背負うスターであり続けた男の真骨頂である。

 矢野も同じ思いを抱いていた。引退を決意した2010年秋、現役最後となる2軍戦で「ゴロを打って、一塁へヘッドスライディングしたかった」と、著書『考える虎』(ベースボール・マガジン社)に記している。

 金本知憲が引退会見で「誇り」と語った連続1002打席無併殺打の記録にも通じる。自分はアウトで打率は下がるが全力疾走で併殺を阻めばチームのためになる。

 本物になるには必要な姿勢である。 =敬称略=

 (編集委員)

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2021年2月19日のニュース