野球の言魂(コトダマ) ロッテ・小林雅投手コーチ編

[ 2018年6月6日 10:45 ]

ロッテの井口監督(左)と小林雅コーチ
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 【君島圭介のスポーツと人間】現役時代は守護神として、メジャーの大舞台も経験した。そのロッテ・小林雅英投手コーチ(44)が、今季から先発を担う若手投手陣に対して投げかけた言葉だ。

 「勝ちたいという欲が出てきたら、ぶった切る」



 今季、ロッテの先発ローテーションに入った2年目の有吉、土肥、ドラフト5位入団のルーキー・渡辺(NTT東日本)の3人は交流戦2カード目を終えて合計8試合に先発登板しているが、1人も勝ち星が付いていない。クオリティースタートを達成しても打線の援護がない不運な試合もある。だが、小林コーチは「それが野球、先発投手の宿命です。彼らは1番目に投げる投手。まだまだ半人前でさえない。けなげに投げていくのが使命です」と突き放した。

 小林コーチは彼らを数字で判断しない。目を光らせるのは「野球に対する姿勢」だ。

 「人間は欲が出てくる。でも謙虚にやらないといけない。欲はトレーニングとか準備とか違う方向に出して欲しい」

 3投手は全員が社会人野球の出身。球界では「即戦力」と位置づけられるが、小林コーチは半人前でさえない、と言った。「僕がプロに入ったのはちょうど渡辺と同じ年」。日体大、東京ガスを経てロッテ入りした小林コーチのスタートも24歳と遅い。それでも日米実働13年で通算234セーブを達成した経験則がある。

 6月4日のZOZOマリンスタジアムでロッテの先発投手陣が調整練習を行った。小林コーチは若い投手に語りかけた。「俺が入団したときの年俸はこれだけだった。でも、こういう感じで上がっていくんだぞ」。そして、「いいなあ、お前らは。これから億のお金を稼ぐチャンスがあるんだから」と続けた。

 仕事の分担化が確立した現代の野球で、先発投手が必ず完投する必要性は少ない。「勝ちたいという欲が出てきたら、ぶった切る」という言葉の真意は試合を背負い込むな、なのだろう。小林コーチは「勝利投手の権利を優先しては投手交代のタイミングを誤る」とも言った。勝敗の責任はベンチの首脳陣が背負う。その覚悟があるから、言葉も重い。(専門委員)

 ◇君島 圭介(きみしま・けいすけ)1968年6月29日、福島県生まれ。プロ野球やJリーグのほか、甲子園、サッカー選手権、花園ラグビーなど高校スポーツの取材経験も多い。現在はプロ野球遊軍記者。

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