【野球のツボ】イチローにも1日契約を…松井氏の引退式から

[ 2013年8月1日 12:30 ]

マリナーズ時代、数々のメジャー記録を塗り替えてきたイチロー

 ヤンキースによる松井の引退セレモニーは感動的だった。ジーターが55番のユニホームをプレゼントしたときの、2人の表情が何とも言えずに良かった。松井の人柄、チームメートたちのリスペクト、そしてファンの愛情。すべてがグラウンドに凝縮されていたセレモニーだったと思う。

 ヤンキースはこのセレモニーのために、特別な配慮を松井に示した。マイナー選手としての「1日契約」を松井と交わしたのだ。野球界は最終所属球団の名前が肩書きとしてついて回る世界。松井の場合で言えば「元レイズ」となるところだが、今回の「1日契約」によって「元ヤンキース」が松井の肩書きとして残ることになった。勝つことがすべてというメジャーの超名門球団が特別な扱いをした。これだけでも、松井という野球人に対する評価が分かる。松井の人間性が、ヤンキースを動かしたのだ。これは日本の野球人としても誇らしい出来事だ。

 松井と比較するのもおこがましいことだが、私は現役時代、日本ハムと広島でプレーをした。肩書きとしては「元広島」となるところだが、ファンの人たちの記憶には「日本ハムの高代」として残っているようだ。プレーした期間、活躍の度合いから、そのように印象づけられているのだろうが、名実ともに「元ヤンキース」で通せる松井は、やはり別格だと思わずにはいられない。

 ここまで書いてきて、ふと思った。今ヤンキースでプレーしているイチローのことである。いつかはイチローも引退の決断をするときが来るはず。それはヤンキース在籍中のことかもしれないし、また別のユニホームを着ているときかもしれない。そのときにマリナーズは「1日契約」を申し入れて、「元マリナーズ」の肩書きをプレゼントしてくれるのだろうかということだ。

 私が決める立場でも何でもないが、願うことが出来るなら、マリナーズには、そうした判断をしてほしいと期待をしている。日本のプロ野球が育てた2人の偉大なバッター。引退についても同じように扱ってもらえれば、と思うのだ。(前WBC日本代表コーチ)

 ◆高代 延博(たかしろ・のぶひろ)1954年5月27日生まれ、58歳。奈良県出身。智弁学園-法大-東芝-日本ハム-広島。引退後は広島、日本ハム、ロッテ、中日、韓国ハンファ、オリックスでコーチ。WBCでは09年、13年と2大会連続でコーチを務めた。

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2013年8月1日のニュース