【内田雅也の追球】「野球の心」知るオーナー

[ 2024年2月5日 08:00 ]

手を合わせる阪神の(左から)杉山オーナー、岡田監督、秦会長(撮影・岸 良祐)
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 古今東西、野球好きのオーナーは数多いが、阪神オーナーの杉山健博(65)も筋金入りである。

 沖縄入りした前日3日には育成出身の若手大砲候補、野口恭佑について「高校時代は左右に打ち分ける打者でしたが」と語りかけ、監督・岡田彰布を驚かせた。創成館高(長崎)3年時、春夏の甲子園に出た時に見て覚えていたわけだ。

 阪急阪神ホールディングス(HD)社長時代から「趣味は甲子園球場での高校野球観戦」と伝わっていた。岡田は前日の会見で「オレよりも、内田よりもよう知っとるよ」と名指しされた。

 いや、単に高校野球通というだけではない。いわゆる「野球の心」を知っている。4日に応じた囲み取材で分かった。

 杉山は昨年同様、毎週土日、大阪―沖縄を4往復し、キャンプ視察に訪れる予定のようだ。その意図を「よくフロント、現場が一丸となって……と言いますが」と説明した。「野球は常に現場と同じ目線で同じものを見ないとわからない。キャンプでも第1クールと第3クールでは選手の動きも違ってくるわけです。ですからシーズン中も極力、現場に足を運ぼうと思っています」

 続けて「野球には同じ試合というものがないわけです。ただし後から考えれば、あの1球、あのプレーが明暗を分けたというものがある。とすれば、同じ場面で同じことを見ておかないと思いを共有できません」。

 全く、それが野球の醍醐味(だいごみ)である。野球を愛し昨年11月に逝った作家、伊集院静は<野球の真髄(しんずい)>について『逆風に立つ』(角川書店)で<野球は百万回ゲームをやっても同じゲームは一度としてない>と書いている。だから毎日でも見ていられる。そして<日々、ヒーローはかわり、日々、勝者と敗者は生まれる。今日は敗れたが、明日は必ず打ち砕いてやる>、それが<真の価値であり、希望なのである>。

 杉山は岡田はもちろん選手やフロントとも、そうした野球の日々を積み重ねようとしているわけだ。明暗が分かれ、山あり谷ありの日々となるが<それが人生に似ている>と伊集院は書いた。野球に人生をかけるプロならば余計である。

 杉山は「勝ちたいという気持ちが強い方が最終的には勝つと信じている」と話した。「野球の心」である。 =敬称略= (編集委員)

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