中村武志氏 逃げないヤクルト・中村 逆境でこそ直球

[ 2022年10月26日 06:30 ]

SMBC日本シリーズ2022第3戦   ヤクルト7―1オリックス ( 2022年10月25日    京セラD )

<オ・ヤ>5回、安打を放つ中村(撮影・光山 貴大)
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 【中村武志 日本シリーズ大分析】1敗1分けのオリックスが京セラドームで迎えた第3戦。ホームで流れを変えたかったが、打線がヤクルト・中村のリードの前に封じ込められ、援護のないまま投手陣がつかまった。本紙評論家の中村武志氏(55)は、ピンチの場面で直球で勝負した強気の配球が光ったと指摘。また、山田の先制3ランのきっかけは直前の打席での内野安打にあったとした。(構成・飯塚 荒太)

 ヤクルトの勝因は、捕手の中村抜きに語れない。試合序盤から何度もオリックスにいきそうな流れを食い止めるリードが光った。

 初回2死三塁では、カウント2―1から変化球を3球続けた後、7球目の直球で空振り三振。頓宮に変化球を7割くらい意識させ、最後に速球を使う。4回1死二、三塁での連続三振。中川圭には変化球を5球続けた後、高橋にフルカウントから初めて真っすぐを投げさせた。杉本も内角の真っすぐで仕留めた。ピンチを切り抜けて流れを変え、5回の山田の先制3ランにつなげたと言っていい。

 特に杉本には第1戦から内角を厳しく攻めて、全くスイングをさせていない。オリックスバッテリーはランナーがたまると、変化球が多くなっている。かわそうという傾向があるからだが、中村は逆にピンチになればなるほど内角の真っすぐをうまく使っている。

 私は中日での現役時代に日本シリーズで2度敗れたが、いいバッターほど変化球を多く使ってかわそうとした。捕手として「逃げちゃダメだ」ということを痛感したが、中村は素晴らしい。オリックスの各打者をしっかり観察して投手をリードし、予期せぬ配球で打ち取るシーンも多い。昨年に続き、今年も日本シリーズで投手それぞれの勝負球を気持ち良く投げさせるリードを見せている。

 ヤクルトの監督だった野村克也さんは「優勝するチームに名捕手あり」と言っていたが、中村は名捕手の古田敦也さんから、いいものを受け継いでいる。キャッチングから、リード面でも変化球を効果的に使い、ピンチの場面では割り切ったような強気なところまで本当に似ている。背番号まで同じ27番になって、まるで双子のよう。そう思ってしまうくらい、非常に目立っているシリーズだ。

 高津監督は山田が打たないことには、シリーズを勝てないと思っているはずだ。だからこそ、状態が上がらないバッターをあえて1番で起用し、打席が多く回るようにした。

 このクラスのバッターはどんなに悪くても、一本のヒットで変わる。それが、3回の内野安打だった。二塁ベース寄りの打球に対し、二塁手の安達は待って捕球した。打球にタイミングが合わなかったからだが、投げる体勢で捕らないと間に合わなかった。これがアウトになっていたら、5回の先制3ランは出なかったと思う。

 山田は速球を待ちながら、変化球が来ても反応で打てるバッターだ。状態が悪いとはいえ、揺さぶるためには内角を厳しく攻めるのがセオリーで、オリックスバッテリーの狙いもそうだった。内野安打も内角速球に詰まった打球で打ち取ったはずだった。しかし、ああいうヒットこそが、不振のバッターを生き返らせてしまう。本塁打も内角を狙った速球が少し甘く入ったもので、オリックスバッテリーはわずかな制球ミスが命取りになった。

 オリックスは2つ負けていよいよ厳しくなったが、第4戦に勝てば分からない。ちょっとでも気を抜いたら一気に流れが変わるのが短期決戦。「26日が全て」という中で、中嶋監督がどういう選手起用をするのか。おそらく、レギュラーどうのこうのではなく、勝つために調子がいいと見極めた選手をスタメンで使ってくるはずだ。

 ただ、主砲の吉田正一人では到底無理。ただでさえ、ヤクルトバッテリーのマークも厳しく、一塁が空いていれば歩かされるだろう。吉田正の前後を打つバッターが機能しないと、ヤクルトには打ち勝てない。中嶋監督は第2戦に続いて、この日も打順を大幅に変更したが、初スタメンで4番に抜てきされた頓宮は機能しなかった。

 本来なら7番を打った杉本が吉田正の前後を打たないと厳しいが、中村のリードに打撃を狂わされている。中嶋監督はラオウと心中するのか、それとも、スパッとスタメンから外すのか。その決断に注目している。

 《中村が攻守で勝利けん引》中村は打っては5回に先頭打者で左前打。日本シリーズ3試合連続安打とし、2死後に山田の3ランで先制のホームを踏んだ。守っては先発・高橋ら5投手を好リード。計10三振を奪い、オリックス打線の反撃を9回の1点にとどめた。高橋は「中村さんのリード(のおかげ)で、いいテンポで投げられた」と感謝した。

 ▽中村の21年日本シリーズMVP 全6試合に「6番・捕手」でフル出場。第1戦では山本から先制打を放つなど、22打数7安打、3打点。チームトップの打率・318を残し、守備では史上初の全試合2点差以内の接戦で好リードした。第2戦ではシリーズ初先発となった高橋のプロ初完封を支えるなど、チーム防御率は2・09。2度試みられた盗塁をいずれも刺した強肩も光った。

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2022年10月26日のニュース