駅伝の名将が挑む「部員8人」からの出発 勝つ喜び、成長する喜びを生徒と一緒に

[ 2021年1月13日 05:30 ]

広島・銀河学院中・高陸上部総監督の森政芳寿さん

 剣豪・宮本武蔵の兵法書「五輪書」にちなんで、五輪競技の指導者のモットーを月イチで紹介する。第47回は、女子駅伝の元日本一監督で、現在は銀河学院高(広島)で指導する森政芳寿さん(63)の「チーム作りの極意」に迫った。

 一からチームをつくれば、壁にぶち当たり、うまくいかないことの連続だ。19年春に広島・銀河学院高で指導を始めた森政監督も同じ。部員勧誘、選手の力に合ったメニューづくり、下宿先の手配などに奔走しながら、昨秋、広島県高校駅伝に初出場した。

 推薦入学の2名のほかはバラエティーに富んでいた。元茶道部、医者志望の秀才タイプ、投てき選手、マネジャーも一緒になって練習で汗を流した。新たな一歩は、28校中15位。結果は、かつて毎年出ていた「都大路」に遠くても、63歳の名将はこれまでと違った喜びを覚えていた。

 「部員8人のうち、2人がマネジャー。みんなでやろう、という言葉に応えてくれて、マネジャーも練習をしてくれた。自分が思う以上に選手が自ら動いてくれることが、指導者としてうれしい瞬間。優勝インタビューを受けるのもいいかもしれないけど、それとは違ううれしさがある」

 以前は、岡山・興譲館高の監督だった。日本一に2度なった。教え子の代表格は、1万メートル日本記録保持者で、同種目の東京五輪代表・新谷仁美。ロンドン大会にも出た新谷のほかに、重友梨佐、高島由香も社会人で五輪に出場した。3人もオリンピアンを育てた。

 14年間の中学校教員で残した陸上強化の実績を買われ、興譲館へ移った。結果を出し、選手も育てた一方で、「たくさんのいい選手を潰してきた」と強豪だったからこそ味わった苦悩も打ち明ける。

 「チームの中心ばかり見てしまった。例えば、新谷がいたとしたら、その選手に合わせてメニューをつくってしまった。陰で泣いた子はいると思います」

 15年から実業団のTOTOの監督に就任。退任後、再び高校に戻った今は、これまでの豊富な知識と経験を生かして現場に立つ。「指導者は選手に教えられるもの。かめばかむほど面白い子どももいます」。勝つ喜び、成長する喜びを生徒と一緒に味わう挑戦が、また始まった。

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2021年1月13日のニュース