【東京五輪あと1年 二宮清純氏直撃に森喜朗会長激白(1)】IOCとの交渉舞台裏…コスト削減苦慮

[ 2020年7月23日 07:00 ]

二宮氏(左)と対談した東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(撮影・小海途 良幹)
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 新型コロナウイルスの影響で来年へ延期となった東京五輪は23日、開幕1年前を迎える。史上初の延期に伴う追加経費や大会の簡素化、コロナ対策など多くの課題を抱える五輪は1年後、無事に開催できるのか。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)を、スポニチ本紙コラム「唯我独論」でもおなじみのスポーツジャーナリスト二宮清純氏(60)が直撃した。(構成・スポーツ部専門委員 中出 健太郎)

 二宮 約3カ月ぶりです。お元気でしたか。

 森 体は元気だけど、何だか憂鬱(ゆううつ)だね。

 二宮 憂鬱ですね。コロナの暗雲の下にいるようで。

 森 野球ができるかどうかって、空模様を見ながらキャッチボールしてる感じだね。

 二宮 夜の会合とかも減りましたか。

 森 一晩に1、2カ所でしたが、今は全くやらない。いつも7時前に家に帰るので女房がびっくりしてる。

 二宮 お酒はやめたんですか。

 森 やめてはいないけどすぐ太るから。一時は110キロあったのが、今は80キロ。それでも最近は81~82キロまでいった。

 二宮 あまり痩せると、かえって貫禄がなくなりますよ(笑い)。

 森 二宮さんもそうだろうけど、人と酒を飲みながら食べて話すことによって糧を得ることが多いわけだから。やはり接することができないのはきついよね。

 二宮 過日、森会長がおっしゃっていましたが、どうもIOCは簡素化に熱心じゃないと。米テレビ局と契約しているので、違約金を取られると。

 森 必ずそういうことを言うんだよ。違約金って。これは今回のメインテーマなんだが、「言うは易(やす)く行うは難し」、「総論賛成、各論反対」。競技場も選手の数も全部決まっている中で(簡素化の項目を)削減しろ、というのは五輪の競技本体をぶつ切りにすることなので、簡単にはできない。では、レセプションが多いからまとめるとか、ホテルを節約させるとか、車の数を減らすとか、華々しいことを節約すると言うが、それではたいした(コスト削減の)金額にはならない。

 二宮 IOCは競技数や選手数の削減には一切、手をつけるなということですね。

 森 選手もそのつもりでいるのに、(削減するから)あなたは出なくていい、とはいかないでしょう。

 二宮 開会式と閉会式に関しては。

 森 今一番、苦労しているところ。経費削減というよりも、開会式は盛大に、お祭り騒ぎみたいにやるわけですね。これが今の日常、この状況の中でやっていいのかどうか。例えばコロナを完全に抑え込んで、そのお祝いも兼ねた五輪だと花火を打ち上げれば、みんな賛成するかもしれない。だけど、何とかコロナは抑え込んだけど、まだ世界の多くの国が苦しんでいる状況なら花火を上げるような話ではない。だから、開会式のストーリーもぎりぎりのところで質素にやるのか、従来のように華々しくやるのか、両方を検討させているんですよ。

 二宮 来年の7月がどういう状況になっているか見通せない。

 森 2つの考え方を持ちながら収束状況を見て、今年の秋頃までには結論を出していかないといけないと思ってます。

 二宮 秋ぐらいに結論ですか。

 森 最初のヤマ場だと。

 二宮 組織委員会が出した修正計画をIOCがどう判断するか。

 森 今、IOCといろいろやってますよ。だいたい(簡素化の検討は)200項目ぐらいあるんですよ。その中でもすぐ着手できるのが50項目ぐらいありましてね。それを順番にやって、こういう案でやろうと思うと問い合わせて、IOCがそれはいいとか、ダメとか言ってきているんですよ。まだ公表はできないんですが、報告を聞いてみると、総論賛成、各論反対と。

 要はお金の節約になるかどうか。例えば開会式を簡素化というと(時間が)短くなる。五輪とパラリンピックの開閉会式は全部、テレビ会社と契約が済んでいる。そうするとテレビとしては、楽しくないものなら金を返せということになり、やめれば違約金だと。

 二宮 IOCはそこまで言うんですか。

 森 上の方は言わないけど、現場の事務レベルはそう言いますよ。
(続く)

 ◆森 喜朗(もり・よしろう)1937年(昭12)7月14日生まれ、石川県出身の83歳。早大ではラグビー部に4カ月間所属。新聞社勤務、議員秘書を経て、69年の衆議院議員初当選から14期連続当選。自民党三役(幹事長、総務会長、政務調査会長)、文相、通産相、建設相などを歴任し、00年4月に第85代内閣総理大臣に就任。12年に議員を引退した。14年から東京五輪・パラリンピック組織委員会会長。日本ラグビー協会名誉会長。

 ◆二宮 清純(にのみや・せいじゅん)1960年(昭35)2月25日生まれ、愛媛県出身の60歳。フリーのスポーツジャーナリストとして五輪は過去に8回現地取材。スポニチ本紙では00年シドニー夏季五輪、02年ソルトレークシティー冬季五輪、04年アテネ夏季五輪で観戦記を執筆し、毎週水曜日付で「唯我独論」を好評連載中。「スポーツ名勝負物語」「勝者の思考法」「最強のプロ野球論」「歩を『と金』に変える人材活用術」(羽生善治との共著)など著書多数。19年から広島大学特別招聘(しょうへい)教授も務める。

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