羽生の悲劇で連盟動く 医療態勢改善へ…遠征にドクター帯同検討

[ 2014年11月10日 05:30 ]

車いすに乗りマスク姿で空港ロビーに現れた羽生

 フィギュアスケート男子のソチ五輪金メダリストで8日のGPシリーズ第3戦・中国杯で頭部、顎などを負傷した羽生結弦(ゆづる、19=ANA)が9日、上海から成田空港着の航空機で帰国した。フリー直前の6分間練習で閻涵(エンカン、18=中国)と正面衝突して流血したが、強行出場して2位。この日のエキシビションを欠場した羽生は、都内の病院で精密検査を受けた。検査結果は10日にも発表される。また、日本チームは中国杯にドクターを帯同していなかったため、日本連盟が医療態勢の改善について検討することが判明した。

 華々しい凱旋ではない。午後5時15分、車いすに乗った痛々しい姿で、羽生が成田空港の到着ロビーに現れた。約160人集まったファンの中から悲鳴にも近い「頑張って~」という声が上がる。上下黒のジャージーに身を包み、マスクを装着した19歳の表情はうかがえないが、感謝を示すように何度も何度も頭を下げた。警備員10人が配備されて規制線が張られる厳戒ムードの中、空港を後にして都内の病院で精密検査を受けた。

 悲劇は前日(8日)の男子フリー直前の6分間練習で起きた。羽生と閻涵が正面衝突。氷に顔面を激しく打ち付けた羽生は、頭と顎から流血してしばらく動けなかった。棄権しても誰も責めない状況だったが、「演技したい」と直訴して止血後に強行出場。ボーカル入りの「オペラ座の怪人」に乗って、ジャンプで5度も転倒しながら2位に入った。スコアを確認すると、人目もはばからずに号泣した。

 演技後、顎を7針縫い、側頭部は医療用ホチキスで傷口を3カ所留めるなどしたが、処置したのは米国チームのドクターだった。これまで日本チームは世界選手権や世界ジュニア選手権など、派遣選手人数が多い大会には日本連盟の医事委員会に登録しているドクターを帯同していたが、出場3人の中国杯は帯同を見送った。上海に滞在中の伊東フィギュア委員長は「全てのチームがドクターを連れてきているわけではない。他国のドクターに協力してもらうケースもある」と説明した。

 だが、羽生のあまりにも衝撃的な事故を受け、日本連盟は今後の医療態勢の改善を検討することが判明。伊東フィギュア委員長は「帰国後に医事委員会に報告し、話し合うことになる」と明かした。予算の関係もあって全世代の全大会にドクターを帯同することは難しい情勢だが、日本連盟の強化選手の中で最高ランクの羽生ら、特別強化選手の海外遠征の際にドクターを帯同するプランが有力だ。

 羽生は宿泊先の上海のホテルを出る際も車いすで現れ、足元がふらつき、車に乗り込む際には介添えが必要だった。「お大事に」とファンから言葉をかけられると、会釈して車内から手を振って見送りに応じた。日本連盟関係者に「朝早くからすみません。ありがとうございます」と感謝していたという。左脚に軽い肉離れも起こしている不屈のプリンスは28日開幕のNHK杯(大阪・なみはやドーム)出場に意欲を見せていたというが、全ては10日にも発表される精密検査の結果次第。

 今は願うしかない。魂の4分30秒が、未来ある19歳の選手生命に影響しないことを――。

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