×

【コラム】金子達仁

欧州の“日本買い”拍車かかっても潤わぬJクラブ

[ 2026年5月16日 14:00 ]

マインツの佐野海舟(右、AP)
Photo By AP

 佐野海舟の市場価値が暴騰している。

 「2500万ユーロ(約46億円)では彼の片足すら買えない」

 そう言い切ったのはマインツのスポーツディレクターである。今季の佐野のプレーを見ればわからなくはないが、2500万ユーロで片足すら買えないとなると、両足プラス胴体プラス頭脳をセットで購入するには5000万ユーロ(約92億円)でも足りないということになる。

 ちなみに、25~26年シーズンの移籍市場で最高値を記録したのは、ライプチヒからマンチェスターUに移籍したシェスコの7650万ユーロ(約141億円)。メッシやネイマールには4億ユーロ(約740億円)程度の移籍金が提示されたこともあるというから、上には上がいるものだが、それでも、佐野の移籍が成立すれば、マインツの財政は一気に潤うことになる。

 鹿島でプレーしていた佐野が日本を離れたのは2年前のこと。その際の移籍金は250万ユーロ(約4億6000万円)だったとされる。わずか2年で、佐野の市場価値は10倍に膨らんだことになる。資金運用のプロにもなかなかできないような高配当である。

 日本選手の市場価値が上がるのは、もちろん悪いことではない。おそらくはフェイエノールトの上田綺世にも相当な高値がつけられるだろうし、W杯の結果いかんでは、日本選手に対する関心はさらに高まることになるだろう。いや、万が一早期敗退を喫し、日本サッカーの評価が落ちることになったとしても、それはあくまで一時的なもの。今後も、欧州の“日本買い”には拍車がかかっていくだろう。

 ただ、そのカネが日本に落ちてこない。選手は潤っても、彼らを育てた日本のクラブが得られる利益は微々たるものでしかない。

 Jリーグのレベルや歴史を考えれば仕方がない?そうかもしれない。しかし、Jリーグ史上最高額の移籍金が、いまだに01年の小野伸二が浦和からフェイエノールトに移籍した際の550万ユーロ(約10億円)だという事実には、いささか愕然(がくぜん)とせざるを得ない。

 確かに小野は日本サッカー史上にさん然と輝く偉大な才能だが、はや四半世紀以上前の移籍金をいまだ誰も超えられていないというのは、いかがなものか。

 日本と同じく、欧州とは海で隔てられ、かつ欧州に比べればプロリーグの歴史も浅い米国MLSでも、近年、若い世代の欧州移籍が目立つようになってきている。

 日本のサッカー選手と、米国のサッカー選手。控えめに見ても世界的な評価で日本が大きく後れをとる、なんてことはまるでないはずだが、しかし、MLSから欧州に渡る際の移籍金は、Jリーグのクラブが得る額を大きく上回り、1000万ユーロ(約18億円)を超えるケースも珍しくなくなっているという。

 日米両国がそれぞれ輩出する若い才能に差がないという前提に立つのであれば、生まれる移籍金の違いは、リーグとしての構造や設計にあると見るしかない。まず日本サッカーを強くすることを第一義としたJリーグと、ビジネスとしての側面も意識し続けるMLSとの違い、とも言える。

 これはMLSがJより優れている、ということではない。MLSは、Jほどには代表チームを強くできずにいる。ただ、日本が育て、生み出した果実のうまみを流出させるだけの現状は、いよいよ考え直さなければいけない時期に来ている。(金子達仁=スポーツライター)

続きを表示

「サッカーコラム」特集記事

「日本代表(侍ブルー)」特集記事

バックナンバー

もっと見る