申し訳ない

[ 2018年12月25日 08:00 ]

衝撃のスピード投了を強いられた竜王戦第6局(18年12月13日)。大盤解説終了後、永世七冠記念碑の前を苦悩の表情で通過する羽生(右)
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 【我満晴朗のこう見えても新人類】27年ぶりに無冠となった羽生善治・前竜王のタイトル戦を現場取材した回数は7局ある。多いか少ないかと言われれば圧倒的に少ない。その少ないサンプルで大変恐縮なのだが、勝敗は●●●●○●●、なんと1勝6敗。通算勝率7割台を誇る第一人者の取材なのに、なぜこんな数字になってしまうのだろう。

 タイトル戦だから相手も常に強豪棋士だ。多少苦戦するのも仕方ない。それでもこれだけ黒星が続くと個人的には激しく困惑せざるを得ない。もしかして筆者が取材に行くと、なんらかのネガティブな力が働いてしまうのか。

 そんな話をよりによってご本人にぶつけてみたのは3年前、王将戦の打ち上げの席だった。お互い赤ワインを適度に飲み進み、柔らかなムード。えい、勢いだ。この場で聞いてみよう。羽生さん、カクカクシカジカなんですけども。

 「えっ? あっ、そうなんですか? いやなんか、全然気にしてませんよ。はははは」

 ケラケラと屈託なく笑いながら否定していただき、心の底から安心した覚えがある。続けてこんなエピソードも明かしてくれた。

 「とある対局でとあるホテルに到着した際ですが、宿の皆さん一様に表情がこわばってまして。聞いたらその会場で私、勝っていない(笑い)。でも私は、そういうのを全く気にしないタイプなんです。本当に大丈夫ですから」

 今年(2018年)の4月には名人戦の開幕局に出向き、通算1400勝目となる勝利を取材することができた。これが羽生タイトル戦取材初白星。敗れた佐藤天彦名人には申し訳ないけれども、心の中に引っかかっていた何かが取れたような気がした…のだが。

 7月の棋聖戦最終第5局では終日会場で待機し、タイトル100期到達の瞬間に備えながらも、書いた原稿は豊島将之八段の初戴冠。再び大偉業に王手がかかった12月の竜王戦第6局は、藤井聡太七段の通算100勝取材を終えて疲れ切った体にむち打ち、翌日早朝の飛行機に飛び乗って鹿児島県指宿市入り。現場到着直後、飛び込んできた光景は2日目昼食休憩前の投了劇だった。う〜ん。やはり、そうなのか。

 無冠となった希代の名棋士にとって、次のタイトル戦がいつになるのかが注目されている。最短なら19年4月開幕の名人戦だ。ご本人は歯牙にもかけていないとはいえ、その場に筆者がお邪魔していいものなのか、果たして。年末仕事が手に付かないほど思い悩んでいる。(専門委員)

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2018年12月25日のニュース