【内田雅也の追球】敵味方関係なく成功を夢見る「フラタナイジング」効果に期待したい

[ 2023年1月31日 08:00 ]

広島・菊池と自主トレを行う阪神・熊谷(今月9日、静岡市・清水庵原球場)
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 野球には「フラタナイジング」という言葉がある。新しい言葉ではない。中学生時代から愛用する1975(昭和50)年発行、八木一郎『野球英語教室』(恒文社)に<親交、親睦>と元の英語の意味が示され、解説がある。<野球では敵味方の選手がフィールド上で親しげに私語談笑したり、腕や肩を組んだりすることをいい、野球規則で禁止されている>。

 確かに、公認野球規則4・06(ユニホーム着用者の禁止事項)にある。さらに2011年3月の実行委員会で「絶大なファンの支持を得るためにも、あらぬ疑惑を招くようなことがあってはなりません」と再度徹底を呼びかけていた。

 それでもシーズン中、試合前練習中に相手チームの選手や監督、コーチに近づいてあいさつしたり、談笑したりする光景はよく見られる。狭い球界である。先輩後輩といった間柄もあろう。しかし今から戦おうとする相手と仲良く冗談を言い合うなどファンに見せる姿ではない。アマチュアはともかく、プロならば一線を引きたい。星野仙一の言う「ユニホームは戦闘服」なのだ。

 ならば、ユニホームを着ないオフシーズンはどうだろう。近年、チームの垣根を越えての自主トレする選手が多い。巨人・岡本和真と西武・中村剛也、オリックス・杉本裕太郎と楽天・浅村栄斗……阪神では熊谷敬宥が2年連続で広島・菊池涼介と、浜地真澄は4年連続でメッツ入りした千賀滉大と行った。

 昔の野球人ならば「敵と仲良く……など考えられない」と眉をひそめることだろう。かつての自主トレは長嶋茂雄の伊豆・大仁の山ごもりではないが、独りで行うのが通例だった。複数で行うとしても必ず同じチームの選手だった。

 ただ近年はワールド・ベースボール・クラシック(WBC)や五輪など国際試合の日本代表で親交が生まれるなど、チーム間の垣根は低くなっている。いや、それ以上に選手のなかに「ともに高め合う」との考え方が広がっているのではないか。

 浜地は今年、米シアトルの最先端トレーニング施設「ドライブライン・ベースボール」を訪れていた。同所は成長、成功を夢見る大リーガーなど、多くの選手が集う。敵味方に関係なく、互いに高め合う土壌がある。

 キャンプインを前に、フラタナイジングの効果を期待したいと楽しみにしている。 =敬称略=
 (編集委員)

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2023年1月31日のニュース